味はどこから生まれどこへいく

お客さまの「食べたい」を提供し続ける
――東京「創作料理 瓢箪」

2018年11月12日

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特別なビールを飲むならば、特別な食事も一緒に愉しみたい――。各地の名店を紹介する「味はどこから生まれどこへ行く」。第7回は、東京・銀座「創作料理 瓢箪」店長であり料理長でもある滝川順氏が、半世紀にわたり愛される同店の哲学、日本料理の真髄を語ってくれた。

■「和食」と呼ばれなくても構わない

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「瓢箪」のオーナーとの出会いをきっかけに昨年、店長・料理長に就任した滝川氏。「料理の味はもちろん、今、お客さまはサービスを求めているのか、それともそっとしておいてほしいのかを見極めることも大切」と語る

当店が「創作料理 瓢箪」として移転・リニューアルオープンしたのは今年夏のことですが、以前の「家庭料理 瓢箪」の時代から数えると約半世紀、銀座で営業しています。

その間にいた何人もの料理人たちが守り続けてきたのが、おばんざい料理の提供。おばんざいとは京都の言葉で「常備菜」のことで、各家庭で常にストックしてある料理といえばわかりやすいでしょうか。

ただ半世紀続けてきたからといって、昔からのつくり方を守っているだけではありません。料理は疑うことからはじまる、と僕は思うんです。たとえば肉じゃがのレシピがあるとして、「なんでこういう風につくるんやろ?」という一種の疑念を持つのが大切なんですね。あるいは、目の前に誰もが美味しいという肉じゃががあったとしたら「なんでこんなに美味しいんやろなあ......?」と考える。これも疑うことと同じだと思います。

なぜ疑わなければならないのか? その理由は、時代が常に変化しているから、ということに尽きます。料理の仕方自体がどんどん変わっていますし、素材の輸送方法1つ取っても昔より格段に進化していますよね。そうすると、かつての料理人たちと同じやり方をするだけでは、本当に美味しいものはつくれないんです。

店として大切にしているのは、和食ですのでやはり日本らしさを持つこと、そして、お客さまが食べたい! と思うものを提供する、ということですね。

まず日本らしさについていいますと、日本には四季があります。その四季も単純に4つの時期に区切れるというわけではなく、季節の中で「走り」「旬」「名残り」がグラデーションのように存在して、時間が移ろい続けています。夏を例にとるならば、風がだいぶ暖かくなってきたなと思う時期が「走り」、太陽が燦々と照り気温が高い時期は「旬」、夕方は少し冷え込むようになってきたなと感じる時期が「名残り」です。そうした時期に合わせた料理をお客さまには愉しんでいただきたくて、夏の名残り、秋の走りという季節が変わるタイミングならば、夏の鱧(はも)と秋の松茸を共に味わうことができる土瓶蒸しをメニューに加えるなどしています。

残念ながら、最近は急激な気候変動、頻繁に起こる異常気象のため、食材の採れる季節が大幅にずれ込む、あるいは、満足のいく素材が手に入らないことが増えてきました。当店では、ほぼすべての食材が生産者さんや仲買人さんの顔が見える国産品ですが、今申し上げたばかりの松茸の入手も非常に困難になっています。ただ、嘆いていても仕方ありません。質の劣る素材しか手に入らなければ、それはお客さまに出すべきものではないものですし、従来の素材に代わる新たな食材を見つけて、メニューに加えていくことを肝に銘じています。

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カウンター席は滝川氏をはじめ料理人たちの姿がよく見え、来店客から「今、何つくってるの?」「それ、こっちにもちょうだい」などと声をかけられることもよくあるのだという

もっとも、お客さまから「昔ほどの品質ではないとしても、あの素材を使った料理を食べたいんだよ」と注文されれば、話は別。大切にしていることのもう1つ、お客さまが食べたいものをつくるということですね。

入手困難なもの以外でも、お客さまから「パクチーを使った日本料理を食べたい」といわれたことがあります。そのときは秋鮭の煮物にパクチーを添えました。「日本料理にパクチーを使うのはご法度では?」「そんなの和食じゃない」と仰る方もいるかもしれませんが、それならば和食と呼ばれなくても構わない、と僕は思っています。やはりお客さまが食べたいと思うものをつくることが第一ですから。店のリニューアルにあたって「家庭料理 瓢箪」から「創作料理 瓢箪」と名前を変えたのも、そうした思いによるものです。

だから、マスターズドリームマガジンの読者の方が当店にいらっしゃるならば、食べたいと思うものをぜひ教えてほしいですね。

■居酒屋以上、割烹未満の店でくつろいでほしい

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マスターズドリームによく合う逸品としてつくってくれた、金華鯖とルッコラの辛子酢味噌和え。「僕が飲んでみて思うのが、和食では滅多にないとても辛い料理もマスターズドリームならより美味しく食べられるんじゃないか、ということ。ぜひチャレンジしてみたいと考えているところです」(滝川氏)

当店で扱うお酒は、ビール、日本酒、焼酎はもちろん、サワーからワイン、高級シャンパンにいたるまで、多種多様に揃えています。これも、お客さまが飲みたいと思われるものを飲んでいただきたいからですし、それぞれの料理でどんなお酒を飲みたいか変わってきますからね。普段は置いていないものでも、ご予約時などにお申し出いただければ、用意しています。

そうしたいくつものお酒がある中で、当店の生ビールはマスターズドリームです。僕も旅をしながら飲み歩いたり、職人仲間と一緒に飲むことは好きですが、そこでマスターズドリームを口にするときは、重すぎず軽すぎず絶妙なビールだといつも思います。喉越しだけのビールだったら、1杯飲めば十分じゃないですか。でも、マスターズドリームは何杯飲んでも飲み飽きず、愉しむことができます。

この「重すぎず、軽すぎず」というのは、ビールとしての個性がきちんとありながら料理の味と喧嘩しない、ともいい換えられます。そういうビールだと、食事をしながらだけでなく、次のお皿に箸を移すときに一口含んでリセットするために飲む、といったこともできますね。今回、マスターズドリームに合う料理として、写真にある「金華鯖の辛子酢味噌和え」のほか「大山鶏南蛮」「本鮪とうにのユッケ」などこってりした料理をつくらせていただきましたが、こうしたお皿の前後でマスターズドリームを飲むとビールも料理もより美味しく感じられると思います。

冒頭で申し上げたように当店は半世紀の歴史がありますから、それを大切にしながら徹底的にこだわった素材を使う料理、さらにサービスや空間までもお客さまに味わってほしいと考えております。とはいえ、堅苦しい雰囲気になるのもよくありません。当店のオーナーとも、変に気取った店にはしたくない、〝居酒屋以上、割烹未満〟の店にしたい、と話しているんです。お客さまも店に入られましたら、「背広は脱いでみようか」くらいのお気持ちでくつろいでいただけたら、嬉しいですね。

<プロフィール>

滝川順
「創作料理 瓢箪」店長・料理長。和食一筋の料理人として20年以上、研鑽を重ね、2017年より現職。

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