その逸品ができるまで

アウトドアで「人間性」を回復する
――スノーピーク代表取締役社長 山井太インタビュー

2018年7月30日

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新潟県燕三条地域、ものづくりのまちとして知られるこの土地から、自然指向のライフスタイルを提案するスノーピーク。機能的かつ、シンプルで美しいキャンプ用品や、顧客と社員が対話するキャンプイベントの開催などを通して、アウトドアがもつ可能性を世に発信し続けている。「スノーピーカー」と呼ばれる熱心なファンをもつ同社の哲学について、スノーピーク代表取締役社長・山井太氏に訊いた。

■世の中にない「本当に欲しいモノ」を作る

同社のスタートは1958年にさかのぼる。山井氏の父親である幸夫氏は、金物問屋として同社を創業し、燕三条の優れた職人技術を活かしたオリジナルの登山用品を生み出した。

1986年に同社に入社した山井氏は、ハイスペックなギアで楽しむおしゃれなキャンプスタイルを提案すべく、キャンプ事業をスタートさせる。当時、キャンプは手軽なレジャーのひとつといった位置づけで、洗練されたデザインのキャンプ用品はまだなかった中、同社が最初に販売したキャンプ用品は、16万8,000円のテントだった。細部に至るまで徹底的にこだわり抜いたこのテントは、初年度にして100個も売れ、これまで潜在的だった新たなマーケットを切り開いた。山井氏は以下のように語る。

「当時、もしも、おしゃれなキャンプのマーケットがあったら、私たちはキャンプ事業を起業していないと思います。『世の中にないモノを作る』、私はそれがメーカーの使命だと思っています」

また、同社は「自らが心から欲しいモノをつくる」という志のもと、ユーザー目線を徹底している。これは同社の製品の大きな特長である頑丈さ、美しさ以外に、汎用性の高さにもよく表れている。収納棚としても使用可能な「ラックソット ベースユニット」は天板を取り付ければ小ぶりなテーブルに、クッションや背もたれを変えればソファーや椅子として使用することができる。

「例えば2人でキャンプする時と大人数とでは、適した備えは異なります。それらを全て一から揃えずとも、製品の組み合わせ次第で多様な使い方ができる様に意識しています。また、弊社の製品には全て永久保証が付いていますが、これも、自分たちがユーザーの立場に立った時、モノが壊れることが嫌だからです。自分が欲しくないモノは作らない。全てのことにおいてユーザー目線を大切にしています」

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自然に囲まれたオフィス内にはテントなどのキャンプ用品が配置されている

■自然のままの魅力を大切にする

スノーピークの美しい製品が計算され尽くしたデザインであるのに対し、本社を併設した、約5万坪を誇る「Headquarters」を始めとするキャンプ場には、逆に「必要以上に手を加えない」という。その理由を山井氏は「自然には自然のままの魅力があるから」と説明する。

「駐車場だったところを芝生にするなど、『自然に戻す』、ということはありますが、例えば芝生のある場所に新たにコンクリートの道を作ることは決してしませんし、もともと自然のある場所に木を追加で植えるということもしません。余計に手を加えて、無理やりデザインする、というようなことはしません。自然には自然のままの魅力がありますから」

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スノーピークの本社を併設する約5万坪の広さを誇るオートキャンプ場の一角

人間と自然の関係を考える「山のむこう」というプロジェクトで、スノーピークはサントリーと共に活動を展開しているが、サントリーという会社に山井氏が共感するのはどんなところかを訊いた。

「サントリーが高度成長期の日本に投げかけた開高健さんのコピー、『人間らしくやりたいナ』は大切なものを思い出させてくれた言葉です。また、サントリーは『水と生きる』というコンセプトをもって水源をもち、その周りの自然や環境を活かして工場を建て、水源を大切にしています。そういったところにとても共感しています」

■自然の力で人間性を回復する

自然を愛するスノーピークはミッションとして「自然指向のライフスタイルを提案し実現すること」を掲げている。山井氏はキャンプを通して「人間性の回復」を目指している。

「キャンプのマーケットがあるのはほとんどが先進国。先進国の暮らしでは、高度な文明社会の生活を強いられることがありますので、原始的な生活をすることによって、地球のリズムとシンクロさせ、人間らしく生活するということを補完的に行うのがキャンプだと考えています」

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新潟県燕三条の金属研磨の職人が開発したECOカップ。ビールを注ぐときめ細かい泡が生まれる

また、山井氏はこの人間性の回復によって、人と人とのつながりが生まれると説明する。

「家族とキャンプをするとき、睡眠以外の起きている時間も共有します。食事を作ったり、寝るためのテントを組み立てたりと、人間の根本的な生活の共有によって、家族間の距離が近づくと考えています。また、隣でキャンプをしている家族とお子さん同士が仲良くなることによって、その親同士も一緒に夕食をとったり、お酒を飲んだり、人と人とのつながりが生まれます。キャンプによって、個人が人間性を回復し、家族の仲が深まり、コミュニティが形成されるのです。スノーピークのコーポレートメッセージは『人生に、野遊びを。』。私は自然との関わり全般を指して野遊びと呼んでいます。自然に深く関わることで人間が人間らしさを取り戻し、個人や家族、地域が再びつながっていくと考えています」

徹底したユーザー目線、シンプルな美しさへのこだわり、そして自然を愛し、自然の力で人間が本来持っている生活のリズムを取り戻す----。スノーピークが単なるアウトドア用品のメーカーというだけではなく、強力なブランド・コミュニティを形成しているのは、こうした強い哲学が細部まで浸透しているからだと言えるだろう。

山井太(やまい・とおる)

1959年新潟県三条市生まれ。明治大学を卒業後、外資系商社勤務を経て86年、父である山井幸雄氏が創業した現在のスノーピークに入社。アウトドア用品の開発に着手し、オートキャンプシーンを築く。96年に同社社長に就任。毎年30~60泊をキャンプで過ごすアウトドア愛好家としても知られる。

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