スペシャル
2021年7月29日
今年も特別な「マスターズドリーム」が生まれた。サントリー醸造家のビールづくりの技術を結集した「マスターズドリーム」と、日本を代表するシングルモルトウイスキーである「山崎」の木樽が融合した「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉2021」が、7月より数量限定で抽選販売される。
今やビール好きにとって年に一度の楽しみとなった〈山崎原酒樽熟成〉に込めた想い、このビールをつくる難しさと喜びについて、開発担当者の岡島高穂に聞いた。
昨年から続くコロナ禍は、日本人の働き方やライフスタイルを大きく変えた。ステイホームが推進され、"家飲み需要"が急増。お酒を飲むシーンも多様化し、さらなるお酒の楽しみ方として、自宅でちょっと贅沢な気分を味わえるプレミアムビールに注目が集まった。
しかし、世の中のニーズが変わっても、ビールづくりが根本的に変わることはない。岡島が語る。
「家飲みの時間は1日の終わりの至福のひとときだと思います。そのような特別な時間を華やかに彩りたいという想いで今回のビールづくりと向き合ってきました。」
日々、ビールの状態を見極めながら品質管理することが求められるビールづくりに向き合う姿勢は変わらないが、特に〈山崎原酒樽熟成〉のつくり方自体は、マニュアルとして確立されているわけではなく、毎回細かな調整が欠かせないという。
「木樽熟成は経験を重ねるごとに難しさを実感します。いつも我々が使っているステンレス製のタンクと比べると、木樽はひとつひとつ個性が違っているので、その状態を確認しながら熟成の温度など、樽の状態を厳密に管理する必要があります。木樽の個性を見極めながら、いかにビールとしての完成度を上げていくか。そこが〈山崎原酒樽熟成〉に挑む醸造家としての腕の見せ所だと考えています。」
そうして目指す〈山崎原酒樽熟成〉の味わいについては、「ごくごく飲むよりも、ビールと向き合いながらじっくり飲むことを想定している。」と言う。
「どちらかといえば、「ザ・プレミアム・モルツ」や「〈香る〉エール」は日常の中で愉しむビールで、「マスターズドリーム」は特別な時間を愉しむビールだと思います。そのうえで〈山崎原酒樽熟成〉は年に一度のビールということもあり、電気を薄暗くしてテレビも消して、ビールと自分とのゆったりした時間を愉しむような、そういう飲み方をイメージしながらつくっています。〈山崎原酒樽熟成〉のしっかりした味わいや華やかな香り、満ちあふれる余韻は、まさにぴったりだと思うのです。」
ただ、〈山崎原酒樽熟成〉は単に"味や香りが濃厚なビール"ではない。例年、このビールを待ち望んでいるファンが大勢いる理由は、"木樽熟成ならではの重厚さ、ビールとしての飲みやすさ"という一見矛盾する特徴の両方を兼ねそなえているところにある。
「単純に考えれば、味も香りも軽いほうが飲みやすいと思いますよね。でも、ビールってそんなにシンプルなものではないんです。味を薄くしたら、香りを爽やかにしたら、それで飲みやすくなるわけではありません。反対に言えば、木樽熟成すると味や香りが濃くなるから飲みやすさが犠牲になるわけでもないのです。」
例えば、木樽で熟成を進めるほど、ビールの味や香りが重厚になる傾向があるが、一方でいきすぎてしまうと苦味や渋味が出てきてしまう。そこで求められるのが、全体のバランスであり、ビールとしての調和感だ。
「ビールの飲みやすさを左右するのが、まさにこの調和感だと考えています。それは「マスターズドリーム」をそのまま木樽に入れたら実現できるわけではありません。あくまで木樽で熟成させることを想定したビールを開発する必要があります。木樽熟成ならではの味や香りの特徴をわかったうえで、どういうビールをベースにすると、木樽の個性と調和するのか。熟成させるビールのところから、狙っている味わいの実現に向けて中味を設計しています。」
しかも、熟成させれば完成というわけではなく、〈山崎原酒樽熟成〉は最終的にさまざまな木樽からブレンドして仕上げていく。
「だから、ひとつひとつの木樽の状態に向き合いながらも、同時にブレンドした際の味わいもイメージしながらつくっていかなければなりません。常に全体としてのバランスを意識しながらつくることで、〈山崎原酒樽熟成〉は"重厚でありながら飲みやすいビール"を実現しているのです。」
このように〈山崎原酒樽熟成〉は職人的ともいえるこだわりを徹底することでつくられている。それは普段のビールづくりよりも苦労が多いことを意味するが、「これを担当することは光栄だし、何よりも楽しい」と岡島は語る。
「サントリーの中でも木樽熟成のビールをつくっているのは私たちのチームしかいません。そういう貴重な機会を何度ももらえているのはありがたいですし、ビールづくりに携わる人間としてすごくうれしいことだと感じています。〈山崎原酒樽熟成〉に関しては、人の手でひとつひとつ木樽に充填しています。普段のビールづくりの工程よりも手間がかかる分、ものづくりとしての充実感も大きいですね。」
岡島が〈山崎原酒樽熟成〉を担当するのは、今回で3度目となる。経験を重ねてきた一方、過去の品質と比べられるプレッシャーもあるのだろうか。
「もちろん、このビールをつくるときは『どんなものができるだろう』とワクワクするだけでなく、『楽しみにしてくれているお客様の期待に応えなければならない』というドキドキ感も同時にあります。2020年の〈山崎原酒樽熟成〉では、幸いにも『この前のものよりも美味しかった』との感想をいただけました。サントリーの醸造家の信念は日々進化を続けることです。今回もお客様の期待を超えるものに仕上げていきますので、ぜひ楽しみにお待ちください。」