味はどこから生まれどこへいく

150年の伝統を後世に伝える
――銀座「天ぷら 一宝」

2017年10月 6日

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こだわりのビールには、こだわりの料理が合う――。マスターズドリームが飲みたくなる至高の一品を求め、各地の名店を訪ねる連載「味はどこから生まれどこへいく」。第3回目となる今回は、銀座の天ぷら料理店「天ぷら 一宝」の関勝氏が登場する。

大阪を代表する天ぷら料亭として、長い歴史を誇る同店。その5代目の跡取りであり、現在の東京店の立ち上げから担当してきた関氏に、後世に伝統を伝えるためのこだわりについて聞いた。

■職人であると同時に接客業でもある

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1850年頃、「一宝」は前身である「天寅」として創業しました。初代は大阪の油屋で、何でも副業として天ぷら屋を始めたそうです。さぞ道楽息子だったのでしょう(笑)。

老舗の天ぷら屋と聞くと、いかにも子どもの頃から厳しい板前修業を受けて......と感じるかもしれませんが、初代がそういう、いかにも職人気質な方でなかったせいか、うちは父も私や兄弟も、大学を卒業しています。

父はよく、「料理がおいしいだけでなく、店の居心地がよくなければダメだ」と言っていました。店内を見ていただければわかりますが、私どもはカウンターを挟んで、直接お客様と向き合って料理をします。職人であると同時に、接客業でもあるんです。

ずっと料理の修業だけをして、社会に出たことがないと、さまざまなお客様のお相手はできない。特に現在は、海外からのお客様も増えています。

父はそういう時代の変化を見越していたのでしょう。私はアメリカに留学もさせてもらいました。おかげさまで、海外のお客様がいらしても緊張はしません。

■江戸前とは違う関西流の天ぷらの魅力

代々受け継がれているうちの天ぷらの特徴は、江戸前のものとは違って、油切れが良くて軽いこと。紅花油だけを使い、油をしっかり切ることで、素材の香りや味を生かした天ぷらをご提供しています。東京のお客様の中には、いつも食べている天ぷらの、揚げ物としてしっかりした食感とあまりに違うので、驚かれる方も多いですね。

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衣が軽い分、湿度の管理にはかなり気をつけています。ちょっとでも手を抜くとベチャッとしてしまう。お客様とお話をしながら揚げることも多いので、常に隅々まで意識を配っていなければなりません。だから1日が終わるといつもクタクタになります。

素材にもこだわっています。築地に自ら足を運び、その時期の旬のものを仕入れるようにしています。揚げ物でも、やっぱり旬のものがおいしいんですよ。今の季節なら、甘いコーンやアスパラ、それからきのこ類もいいですね。

天ぷらとビールの相性は抜群です。よくいわれるように、ビールは口の中の油を洗い流し、リフレッシュしてくれます。特にマスターズドリームのような味もしっかりして、かつ喉越しも愉しめるというのは、天ぷらにいちばん合うんじゃないでしょうか。また、天ぷらは旬の食材を使うため、素材の香りが重要です。ビール自体の香りも良く、素材の香りも損なわないという点でも非常に相性が良いですね。

■海外にも伝統の天ぷらを広めたい

私は今年で51歳。この世界に入ってからは30年近くになりますが、未だに発見があります。

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昨年12月、一宝はシンガポールに初めてフランチャイズ店を構えました。立ち上げでは私も店に立ったのですが、あまりに環境が日本と異なりすぎて驚きました。

とにかく、衣がうまく溶けないのです。水も違うし、気温も湿度も違う。だから日本と同じことやっていたらダメなのは当たり前なのですが、ちょっと図に乗っていたんでしょうね。当たり前のことに気が付かず、久しぶりに「何でや、何でうまくいかんのや」と悩みました。

大阪では150年以上、東京でも50年以上やってきました。でも海外に目を向けたら、知名度なんてないようなもの。5代続いた老舗だからって、その看板にあぐらをかいていたら、あっという間にダメになってしまいます。

どれだけやってきたかなんて関係ない。常に目の前のお客様に楽しんでもらうことだけを考え、毎日最善を尽くそう。シンガポールでは、初心に戻されました。

今後は自分の技量を高めていくだけでなく、それを継いでくれる人を探すことにも力を入れたいと思っています。これは単に跡取りというだけでなく、天ぷら業界全体で、伝統の技術をしっかりと残していきたいと考えているのです。

昔ながらの職人さんは、素晴らしい技術を持っていても、「見て盗め」という姿勢の人が多いから、後継者を積極的に探そうとしていないのです。それは非常にもったいない。

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今は海外からのお客様が増えているだけでなく、「日本の天ぷらの技術を学びたい」という料理人が海外からやって来るケースもあります。個人的には、日本人の料理人だけでなく、そういう人たちにも日本の伝統的な天ぷらの技術を教えていきたいと思っています。

独学で身に付けた間違った天ぷらのつくり方が広まってしまうよりも、伝統的なつくり方を覚えてもらい、海外に広めてもらう。そうすることで、世界から日本の老舗がますます注目されていく。

それが私なりの「後世への伝統の伝え方」なのです。

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<プロフィール>

関勝
1966年生まれ。東京都出身。同志社大学卒。創業1850年の老舗天ぷら料亭「一宝」の5代目。アメリカの大学に留学後、家業を継ぐために4代目の父が経営する大阪の「一宝 本店」で修業を始める。2004年から「一宝 東京店」の代表を務め、現在に至る

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