味はどこから生まれどこへいく
2018年4月 3日
こだわりのビールには、こだわりの料理が合う――。マスターズドリームが飲みたくなる至高の一品を求め、各地の名店を訪ねる連載「味はどこから生まれどこへいく」。第5回目となる今回は、銀座のイタリアン「Ristorante Sotto l'Arco(リストランテ ソットラルコ)」のオーナーシェフ・伊藤弘道氏が登場する。
日本の食材を取り入れ、型にはまらないイタリアンを提供する同店。メニューはランチ、ディナー共におまかせのコースのみだ。伊藤氏に日本の食材を使う理由から、店の根本にある想いまで訊いた。
メニューをランチ、ディナー共におまかせのコースのみとしているのはお客さまに、その日その時一番良い料理を提供するためです。毎日築地に行って、その日に提供する食材をその場で選びます。
当店のお客さまは99%が日本人。食べる人が日本人で、日本にはたくさんの良い食材あることから、どうしても日本の食材を使いたいと思ったんです。
例えばパスタを茹でる湯には昆布だしを少し加えて旨味を出します。当店がランチ、ディナー共に必ず提供する「ハマグリのスープ仕立て」もハマグリのスープに昆布だしを少し足しています。日本人は昆布だしやかつおだしを小さい頃から口にしているので、何か懐かしい、心温まるような味になるんです。
ランチ、ディナー共に必ず提供するメニューにはもう一つ「青のりと柚子胡椒のクリームソース」がありますが、こちらは青のりが入ったクリームソースに柚子胡椒をピリッときかせて、最後にゆずを加えています。他のメニューにも八味唐辛子を使用したり、デザートのティラミスには蕎麦の実をのせたり。いわゆるイタリア伝統料理のようなものはほとんど提供していません。
少し変わったことをすると「和風イタリアン」だとか「フュージョン」だとか言われることがありますが、それがよくわからなくて。例えば魚の刺身を使ったカルパッチョは日本独自のイタリアンで、本場では生のお肉を使ったものしかありません。このような新しいイタリアンがどんどん増えて、イタリアンの幅が広がっていけばいいなと考えています。
当店の特徴のひとつにコース構成も挙げられます。通常のイタリアンでは前菜、パスタ、メーンのお魚またはお肉、デザートという流れですが、この構成がずっと気になっていて。日本人はお肉を最後に食べる習慣がないですよね。パスタを先にたくさん食べるとお肉の印象が薄れてしまう。これまで多くのイタリアンレストランで働いてきて、やはりお肉を残す人がとても多かったんです。日本人を対象として考え直して、パスタより先にお肉を出そうと考えました。
また女性のお客さまには「たくさんの種類を少しずつ食べたい」という方が多くいます。そこで、当店のコースは前菜、お魚、お肉、パスタ2種、リゾット、デザートという全10〜12皿構成にしています。イタリアンやフレンチでは珍しい、"割烹"スタイルですね。そのおかげか当店では料理の食べ残しがほとんどないんです。
お酒はイタリアのワインを中心に揃えていますが、飲む順番などはあまりこだわらなくていいと考えています。一番おいしいのは、お客さまがその時に飲みたいお酒ですよね。昔は白ワインから赤ワインなどと言われていましたが、料理の順番もさまざまですから、その料理にあったものを飲めば良いと思います。
マスターズドリームは濃厚な味わいが特徴で、ワインに近いおいしさがあると思います。ボイルした野菜、揚げた野菜にもよく合うと思いますが、ニンニクの強いコクが特徴のバーニャカウダや、柚子胡椒がピリッときいた「青のりと柚子胡椒のクリームソース」と相性がいいのではないでしょうか。
伝統的なイタリアンにこだわっていないように、料理のスタイルに対する強いこだわりは持っていないんです。渾身の料理を少し変えて、お客さまが喜んでくれるなら、その方がうれしい。オープンキッチンでお客さまの様子が見えるので、その時お客さまが飲んでいるものに合わせて味を調整しますし、ご年配の方と若い方、お酒を飲む方と飲まない方とでも同じものを提供することはありません。
お客さまにストレスなく楽しんでもらうために、勉強にも力を入れています。同年代や若い世代にも豊富な知識を備えたシェフがたくさんいるので、いいところを学びたいと常々考えています。毎週本屋に行って料理の本や雑誌を購入しますし、時間があれば実際にレストランに足を運びます。イタリアンだけでなく和食も中華もフレンチもなんでも行きますね。お客さまに喜んでもらうことが当店のこだわりなんです。
<プロフィール>
伊藤弘道(いとう・ひろみち)
1976年生まれ。山梨県出身。調理師の専門学校を卒業後、都内のイタリアンレストランを経て2年半イタリアで修行を積み、帰国後数店舗シェフを務め2011年に独立。リストランテ ソットラルコを開業。オーナーシェフを務める。積極的に他店にも足を運ぶ勉強家。
TOP>味はどこから生まれどこへいく>お客さまにとことん寄り添ったイタリアン
――東京「Ristorante Sotto l'Arco」