味はどこから生まれどこへいく
2019年7月12日
人が1人では生きていけないのと同様に、情熱を持った人々が手を取り合うことで「よりよいもの」がつくり出される。それは、ビールも、料理も、同じだ。東京・八丁堀「stesso e Magari CHIC(ステッソ・エ・マガーリ・シック)」オーナーの星壽仁氏が、シェフの石濵一則氏とともに生み出す同店ならではの"繊細な北イタリア料理"を語る。
私ども「stesso e Magari CHIC」は北イタリア、ベネツィアの料理を中心に提供する店として2017年春にオープンしました。今年で丸2年が経ったわけですが、実は、東京・八丁堀でレストランを開いてから8年の月日が流れています。
というのは、今、当店があるこの場所でフレンチのレストラン「CHIC peut-etre(シック・プッテートル)」を経営していたんです。その店がオープンしたのは2011年のこと。ミシュランガイドで一つ星の評価を受けるなどご好評をいただいておりました。
当時を知るお客さまには意外に思われるかもしれませんが、私がこの世界に入ってから20年余りの中で、フレンチの仕事をしていたのはCHIC peut-etreの5年間のみなんですね。ほとんどの時間をイタリア料理の店で過ごしており、いつかまたイタリアンをやってみようという気持ちはありました。なので、CHIC peut-etreのシェフが独立することになっても、「それじゃあ、ここは閉店しようか」とはなりませんでしたし、さらにベネツィアで修行した経験を持つ石濵一則(現シェフ)と同時期に出会えたのは、なにかのめぐり合わせなのかもしれないと思っています。
立地は、八丁堀・平成通りと交わる路地を入ったところ。「席が限られているので、ランチもご予約をおすすめします」と星氏
現在の店名はイタリア語を主としています。stessoは英語の"same(同じ)"と同義で、私と石濵が同じ歳ということ、そして前のフレンチと同じ場所でやっており以前からのお客さまにも変わらず来ていただければ、との意味を込めたものです。
お気づきかもしれませんが最後のCHICは、前の店名を引き継いでおり、日本語でも使われるような、品がある、落ち着いているという意味の「シック」です。では、その間にあるe Magariはどんな意味かというと「~じゃないけど~かもしれない」「たぶん~」といったニュアンスでしょうか。つまり、CHICと合わせると「シックじゃないけど、シックかもしれない」ということになります。
これは、フレンチ時代に一つ星をいただいたということもあって、堅い、緊張してしまう店のイメージを持たれるお客さまもいらっしゃるかもしれません。でも、私としてはまずは料理を愉しんでいただきたい......そういった意味で「落ち着いているけれど、堅苦しいシックさではない」ことを名前で表したことがひとつ。もうひとつは......(天井を指差して)上を見てください。無垢の天井になっていますよね。店内に入ってまず目にする内装、調度品はラグジュアリーな印象を持たれるように心がけていますが、反面、天井は無垢といったシックさとそうでないところの調和を面白がってもらえればという思いもあります。
「サルシッチャと枝豆のカヴァテッリ 山椒風味」。シェフ・石濵氏が生み出す繊細で、なおかつ"多重奏な味わい"が堪能できる一皿
最初に申し上げたとおり、当店は北イタリア、ベネツィアの料理を提供しています。読者の皆さんは北イタリアと聞いてどんなイメージを持たれるでしょうか? あるいは、イタリアの北と南で、料理にどんな違いがあると想像されますか?
一般に、南イタリアの料理の方がオリーブオイルを多用し、北上するにつれてオリーブオイルよりもバターやチーズ、クリームを使う傾向があります。と同時に、地理的な理由から北イタリア料理はフレンチと似た繊細さも持っています。
当店の石濵は、まさにそうした繊細さ......より具体的にいえば味の強弱のつけ方などが非常に上手なシェフだと思います。たとえば、今回マスターズドリームと一緒に愉しんでいただきたい逸品としてご紹介する「サルシッチャ(イタリア料理の腸詰)と枝豆のカヴァテッリ 山椒風味」。カヴァテッリとはパスタの一種で、当店ではパスタについても絶妙な食感を出すため打ち方にこだわっています。そのパスタと合わせるソースがサルシッチャと枝豆を赤ワインで煮込んだもので、加えて山椒の風味がちょうどよく効いているんです。
これが、イタリアで長く愛されてきた料理とまったく同じ味わいに仕上がっており、同じく伝統的な製法と革新的な技術をもってつくられたマスターズドリームとはよく合うと思います。パスタ自体がビールと非常に調和する料理なのですが、そこで石濵の絶妙なさじ加減から生み出される重層的な味をマスターズドリームとともに食するとどのような相乗効果が生まれるのか、ぜひお試しいただきたいです。
当店の一皿目に提供する料理、と紹介されたのが「バッカラ・マンテカート(塩鱈のペースト)」。ベネツィアならではの郷土料理
シェフが美味しい料理をつくり終えたら、次はお客さまに料理をサービスし、そして説明をする私の仕事となります。
たとえば、シンプルな盛り付けの料理はお客さまの側から見ると、さほど印象に残らないかもしれません。でも、簡単に見える料理でもシェフのこだわり、そして目に見えない味付けが隠れています。「実は3種類のソースを使っているんですよ」とか「リーフが盛り付けてありますけど、酸味のあるものと塩味のあるものの2つがあるんですよ」とか、そうした目だけではわからないところは特に説明させていただいています。
もちろん、料理はなるべく早く召し上がっていただいた方が良いので手短にお話ししますが、心がけているのは、当店ならではの繊細さの説明と、嘘をつかないことです。
その点で、料理を説明するときと似ているなあ、と思うのがマスターズドリームについてさまざまな資料を読んだりサントリーの方からお話を聞いたりするときですね。
当店でマスターズドリームを提供しはじめたのは、機会があってボトルをセットしたサーバーから注いだものを飲み、「これは美味しい」と感じたことがきっかけです。
自分自身が美味しいと感じられないものは店に出せない――そう言葉にすると当たり前のように感じられるかもしれませんが、店は料理そのものにビールなどのお酒、そして食器や内装などさまざまな要素がバランスを保ちながら成り立っています。誰かが「美味しい」といっているものでも、私やシェフが違和感を持てば当店のバランスを崩してしまう可能性があるということなんですね。その点で、マスターズドリームは十分に店で出せると直感しました。しっかりとした料理と合わせても、ビールの存在感は出しつつも料理と相反しないよう、つくられているのではないかと感じます。
それに加えて、醸造家の方々の素材や製法へのこだわりを聞くと、これはまさに私たちがお客さまのために料理をつくり、説明していることと同じだな、と思ったんです。
各席に置かれる木製のショープレートは、星氏のお手製
特に私の場合、お客さまに「美味しいですよ」という言葉を添えることはあまりありません。説明した後に、「お試しください」と申し上げるようにしています。そうすると、「本当に説明されたとおりだ」と驚かれます。ビールの醸造家の方々にしても、味に絶対の自信を持ちつつ、それを押しつけずに「なぜこうつくったのか」といったプロセスや考え方を明らかにするのを大切にされているのではないでしょうか。
......それと、マスターズドリームを口にされたお客さまからは「これなんのビール? すごく美味しい」とよくいわれますが、そのときはマスターズドリームであることを話した上で、「実は瓶の商品を専用サーバーで提供しています」「それでもきめ細やかな泡が出せるんです」といったちょっとした裏話を説明します。
やはり、シェフの料理を説明するときと同じように、マスターズドリームをはじめとしたお酒を提供するときの演出は、お客さまが喜んでくださいますね。
<プロフィール>
星壽仁
「stesso e Magari CHIC」オーナー。都内イタリアンレストラン勤務、イタリア・エミリア=ロマーニャ州のワイナリー留学を経て、2011年に「CHIC peut-etre」を開業。2017年より現職。
TOP>味はどこから生まれどこへいく>オーナーとシェフ、2人が生み出す味の"繊細さ"
――東京「stesso e Magari CHIC」