醸造家は今日もビールの夢を見るか

あのとき私たちが見た夢が、マスターズドリームとして結実するまで
――醸造家鼎談【前編】

2019年3月18日

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人々の舌と心に届くビールを追求する、醸造家たち。そんな彼らの人物像に迫るべく、角井達文(群馬・利根川ブルワリー 醸造技師長。写真右)、丸橋太一(商品開発研究部 開発主幹。同左)、中村洋詩(京都ブルワリー)という3人の醸造家に、ビールづくりにかける熱意や今だからこそいえるエピソードまで、縦横無尽に語ってもらった。前編は、マスターズドリーム誕生秘話から始まる。

中村洋詩(以下、中村):マスターズドリームが世に出てからこの3月で丸4年を迎えます。私は入社してから10年が経つのですが、開発がスタートしたのは私が入社するより前のことで、かなりの時間をかけてつくられたビールなんです。

角井達文(以下、角井):そうだったね。マスターズドリームの開発のスタートは2006年でした。

丸橋太一(以下、丸橋):あの頃は、ザ・プレミアム・モルツがモンドセレクションで3年連続最高金賞となり、「ビール市場に新たな価値観を生み出した」といった評価も受けていました。でも、私たち醸造家、さらにサントリービール全体としても「ここで満足していてはいけない」「次の美味しさを求めるべきだ」という機運が高まっていた。そこで、新たなビールをつくるプロジェクトのための「決起集会」が開かれたんです。

中村:話には聞いていますが、どれぐらいの規模のもので行われたんですか?

丸橋:全国から工場長、醸造家が集まって、「これからどんなビールを作るべきか」意見をぶつけ合ったんです。出た結論は、「私たちの手で、日本に新たなビール文化をつくるぞ!」ということ。「ビールをつくる」だけでなくて「文化をつくる」という挑戦。ここから、マスターズドリームの開発が始まったんです。

中村:なるほど。私たち醸造家は、ビールをいかに愉しんで飲んでもらえるか、またその方法やシチュエーションが増えることを目標にしていますからね。ワインやウイスキーは、すでに日本で文化として浸透していますが、ビールはそこまではまだ成熟していないのではないか? と、サントリーの醸造家は考えていますから。

丸橋:たとえば、ドイツにはヴァイタートリンケン(次の一杯を飲みたくなる、次の機会もまた飲みたくなる)といった言葉があるように、ビール単体だけでも愛されるというのは、ひとつの文化のカタチ。マスターズドリームもまた、ヴァイタートリンケンなビールにしたいとの思いを持ちつつ開発に携わりました。

■新たな設備に悪戦苦闘

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マスターズドリームマガジン初登場となった中村。京都ブルワリーでマスターズドリームをはじめとしたビールづくりに携わる

中村:そうやって始まったマスターズドリームの開発ですが、実際の当時の現場には私も立ち会えていないので、改めて何が起きていたのかを教えてください。

丸橋:私も開発には途中から加わったのですが、その中でも印象に残っているのが、醸造家たちが互いに自分の思いをどう伝え、ひとつのビールにまとめあげていくかということに苦心していた点。「心が震えるほどうまいビール」をつくりたいという思いはどの醸造家も持っていることではあるけれど、考えている方向性は異なる部分もありますから。そこで、絵を描いてみたり目標とする味わいや数値をメモに書いたりして見せ合う、といったコミュニケーションもよく見られました。

マスターズドリームを「多重奏な味わい」と表現しているけれども、それは開発のときにあった、いかに苦味と甘味のバランスを取るか、いかに甘味とコクで苦味を包み込むかという課題が出発点。ビールに苦味は不可欠ですが、それをストレートに感じてしまうと、先ほどいったようなヴァイタートリンケンな味わいにはならない。もちろん、多重奏な味にもなりません。

中村:開発段階で目指す味わいが固まったところで、次は生産の現場でどうつくっていくかという話になりますが......。

角井:はい。マスターズドリームは最初、私のいる群馬・利根川ブルワリーでつくり始めました。今、京都ブルワリーでマスターズドリームをつくっている中村はよくわかると思うけど、新しいビールを開発段階と同じ条件で工場でもつくれるかというと、そうじゃないんです。

中村:試作段階のミニブルワリーでのつくり方を、工場の大きなスケールの中でやろうとしても同じビールができない、ということですよね。

角井:なので、まず行うのが商品開発研究部との考えのすり合わせ。パイロット(試作品)はどのようにつくられたのかをよく聞いて、工場でつくるにはどういった手を加えなければならないか、条件設定をしなければならないか、考えることから始めます。

中村:特にマスターズドリームの場合は、トリプルデコクション、「銅製循環型ケトル」による仕込みといった、独自の工程があります。銅製循環型ケトルは、チェコの伝統的な銅炊き仕込みを基にしており、マスターズドリームのためにつくられた設備です。

角井:麦芽の旨みを引き出すためのトリプルデコクションは、伝統的製法ですから、ある程度はどんな形で行うか想像していました。もちろん、その中でも試行錯誤はありましたが......。一方で、銅製循環型ケトルは本当に大変だった(苦笑)。まったく新しい設備ですから、どういった条件にすべきかのテストはもちろん、それこそ日々の洗浄ひとつを取ってもどうすれば良いかというところから始まりましたから。

■「醸造家って頑固なんです」

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「一般的に、飲みやすいビールとは軽い味わいのイメージ。でも、お客さまからのマスターズドリームの感想を聞いて、濃厚なビールでも飲みやすさは表現できるのだと気づきました」(丸橋)

角井:ところで、後からこのビールに携わっている中村はマスターズドリームをどう思っているの?

中村:そうですね、初めて飲んだときの正直な感想をいうと、男性的なビールといった印象を持ったんです。しかし、今、お客さまからお話を伺っていて感じるのが、マスターズドリームのファンの中に女性や普段はあまりビールを飲まれないという方が意外なほど多いことですね。

丸橋:中村の考えも、お客さまの感想もよくわかります。私自身も、開発のときは「次のステップ」といったイメージを持って携わっていたんです。ビール好きがまた別の方向性に進めると思えるようなビール、といえば良いでしょうか。でも今となっては、ビールが苦手だった人が「これなら飲めますよ!」といってくださいます。また、「ビールってこんなに美味しかったんだ、と思いました」という感想もいただき、本当に嬉しいです。

角井:私も、マスターズドリームを美味しそうに飲まれるお客さまと出会うと、本当に嬉しいです。あと、これから、という点でいうとお客さまの声を聞きながら、マスターズドリームをもっと美味しくしていきたい。日々の仕事では、味のばらつきを出さない、どんな条件でも良いビールをつくる、ということがまず大切になるけれども、その次のステップとして「これをやったらもっとお客さまに届くはず」と試行錯誤を重ねていくのも必要になってきます。私も丸橋も、そして中村も、醸造家って大抵は頑固な性格の持ち主なんですが(笑)、そういう人間が集まって変化に悩みながらも、共に進んでいけば、もっとブレない美味しさのあるビールをつくっていけると思う。

中村:そんなに頑固ですか(笑)? 自分だとわからないですね。

丸橋:私は......頑固かもしれないです(笑)。

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