スペシャル

消滅の危機にあった町の再興
――佐賀県基山町町長 松田一也インタビュー

2018年10月15日

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佐賀県東端に位置し、福岡市や佐賀市、久留米市といった周辺都市にも近い基山町。人口1万7千人ほどの小さな町は、大幅な人口減少から消滅可能性都市にも名を連ねていたこともあった。しかし現在、戦略的な地方創生によって人口増に転じているという。その背景には、制度や施設に力を入れるとともに、地場の食品に力を入れた取り組みが見られる。自然豊かな地域性と食の魅力による町の進化とは? 成功の立役者である町長の松田一也氏に、同町の魅力や未来への展望などについて伺った。

■人口減少をストップさせた町長の戦略

基山町は、古代官道や長崎街道などの主要道路が通り、地形的な条件にも恵まれていたことから交通の要衝地として発展した。北部には基山(きざん)を主峰とする筑紫の山々が連なり、南部は筑紫平野に向かって開け、面積の3分の2が丘陵だという。また、天智天皇が665年に太宰府防衛のために築いた基肄城がいまだに形を残すなど、歴史的名所も多い。読売ジャイアンツの長野久義選手や、漫画『キングダム』の作者・原泰久先生といった著名人の出身地でもある。

そんな基山町がベットタウンとして発展を遂げたのは、1970年から2000年までの30年のこと。以降は、若者世代の就学や就職などを理由に、大きく人口減少へと傾いた。そして2014年には、消滅可能性都市に数えられるまでに。町民の高齢化も進み、危機的状況に陥っていた。

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緑豊かな丘陵が広がる。山の上からの景色は抜群だ

その流れに歯止めをかけたのが、2016年に町長に就任した松田一也氏だった。かつて在籍していた経済産業省九州経済産業局や九州大学で培った産学連携のノウハウを活かし、地方創生に取り組んだ。

例えば、「老人憩いの家」と呼ばれる高齢者福祉施設にキッズスペースを設置することで、多世代が利用できる交流拠点として整備。また、スポーツ振興で町を盛り上げるために宿泊施設を備えた合宿所を新設し、大規模なスポーツ大会が開催できるように。現在は、さらに子育て世代を呼び込むために、新たな保育園を建設しているという。

「私が売り出したのは3C。コンパクトで、コンビニエンスで、クール。都心部からのアクセスが良好で、施設も充実しているから便利に暮らせる。そんな町にしようと考えました。現在はクールの部分を強化するために、新たな施策に取り組んでいる最中です」

こうした基山町の魅力が他県にも伝わり、徐々に人が集まるように。移住体験のために用意した住宅には、1年間で60組を呼び込むことに成功。そのうちの5組が、実際に基山町へ移住したという。さらに、かつて基山町で育った若者が子育てのために帰郷することも増えたそうだ。ちなみに待機児童はゼロだという。

■大型鳥エミューを町の名産品に

また、同町では名産品の発掘やブラッシュアップにも取り組んでいる。特に力を入れているのが、オーストラリア原産の大型鳥エミューだ。基山町の数カ所で400羽ほどを飼育し、食肉やオイルにして販売している。

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ほぼ放し飼い状態にされているエミュー

「エミューの肉は脂分が少なく、高タンパク質、しかも豚肉の約4倍の鉄分を含むとも言われてるので、とてもヘルシーです。また、エミューのオイルは皮膚への浸透力が高いので、化粧品やせっけんとしても活用できます」

今年に入ってから町内に食肉処理場を建設し、飼育から捕殺までを一気通貫で行えるように。これから本格的に商品化を進めていくという。

こうして生まれた新たな名産品は、町内の飲食店で味わえるだけではない。キーマカレーやハム、ステーキ肉などに加工され、町の重要な財政源にもなる「ふるさと納税」のお礼品として展開されている。そのお供にはマスターズドリームが人気だ。しかし、どうしてサントリーのビールがお礼品として選ばれたのだろうか。

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基山町内で人気の食事処「一福」では、エミューの肉が堪能できる

「さまざまな主要道路が通る基山町は、流通の要としても重要な役割を担っています。つまり、このエリア周辺に配送されるサントリーのビールは基山町から出荷されているわけです。それと『基峰鶴』という基山の地酒が、国内はもちろん海外でも人気で、そういう意味では酒は切っても切れない関係にある。だからこそ、基山の名産と一緒にビールも愉しんでもらいたいと考えました。特にマスターズドリームは濃密な味が特徴なので、このビールの味を殺さないさっぱりとした食べ物がよく合う。そういう意味では、エミューの肉はかなり相性が良いと思います」

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塩麹につけて肉質を柔らかくしたエミューの焼肉

またグリーンアスパラは、天ぷらにしてちょっと塩をつけて食べると最高のおつまみになるという。「基山の名産品を、最高のビールとともに」。そんな気遣いが垣間見える。

■「おかえりの町、基山」をテーマに、さらに人が集まる場所に

大幅な人口減という危機的状況を乗り越え、現在は人口増に向けた過渡期にある基山町。これから5年、10年という月日が経るなかで町の景色も大きく変わっていくことが予想される。松田氏はどのような未来のビジョンを描いているのだろうか。

「これからは『おかえりの町、基山』をテーマにして、さまざまなことに取り組んでいきたいと考えています。この"おかえり"には3つの意味があります。1つ目は、都市部から帰ってくる通勤者に対して。2つ目は、一旦は基山町を離れたけれど、故郷に帰ってくる若者に対して。そして3つ目は、縁もゆかりもないけれど、基山町を第2の故郷として考えてくれる移住者に対して。それぞれにとって優しい町でありたいと思います」

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基山町の景色を一望する松田氏

まだ解決すべき問題は山のように存在するだろうが、それらもきっと笑いながら乗り切ってしまうのだろう。「地方創生戦略の成功モデルとして、日本全国から参考にされるような町にしていきたい」と松田氏は微笑んだ。

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松田一也(まつだ・かずや)

1957年佐賀県基山町生まれ。経済産業省九州経済産業局や九州大学で産学連携に従事した後、2014年に基山町副町長に。2016年から現職。趣味はテニスと将棋。

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