スペシャル
2017年9月26日
ひたすらにうまさだけを追い求める、サントリービールの醸造家たちの夢が詰まった「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」。発売以来、多くのビール好きの心を捉えてきた味わいには、もうひとつの形があった。
それが昨秋に発表された「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」。「マスターズドリーム」で培った技術と、伝統のビールづくりに起源を持つ「木樽熟成」という手法で生まれた新たな夢の結晶だ。
本マガジンでは3回のシリーズとして、この「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」の開発にかかわったキーパーソンを取材。第3回目の最終回は、開発チームの中心人物である、サントリービール株式会社 商品開発研究部の新村杏奈と、サントリービールの醸造家・秀島誠吾の対談後編をお届けする。
――前回はサントリーのビール哲学として、「おいしさが続くビールの追求」というものがあるとお聞きました。これは「マスターズドリーム」、ひいては「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」のキーワードにもなっているんですね。
秀島:醸造家のポリシーとして、お客さまにはもっとビールのおいしさを感じてほしいとずっと思っているんです。日本人にとってビールは身近なお酒ですが、愉しむものよりも、グビグビと流し込むものになってしまっています。それはちょっともったいない。
海外にはいろんなビールがあり、ビールの"味"を愉しむという文化が定着している。その代表格といえるベルギーでは、ビールの銘柄別に専用のグラスがあるほどです。最大限にビールの味と香りを愉しんでもらうために、そこまでしている。あえていうなら、ワインのような愉しみ方でビールと接しているわけです。そういう文化を、日本にも根付かせたいと思っています。
――確かに、この「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」は、キンキンに冷やして流し込むというよりも、ゆっくり味と香りを愉しむビールだと感じます。温度が上がっても、また別の表情が出てくるというか。
秀島:キンキンに冷やして飲むビールは、ちょっとぬるくなったらおいしさがガクンと下がってしまうんですよ。それではもっともおいしさを愉しめる時間が短すぎるので、どうしてもグビグビ飲むことになってしまうわけです。
新村:結果的に「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」は度数が高め(8.5%)のビールになりましたが、それでもずっと飲み続けられるビールになったと思います。
――新村さんは「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」の開発を主導した人物として、ビールのおいしさをどのように定義されますか?
新村:私も個人的には、飲み続けられることがビールの良さかなと思っています。ウイスキーやワインは味わいや香りは豊かですけど、お酒に強くないとすぐに酔っ払ってしまいますよね。お酒の愉しさをずっと味わえるのが、おいしいビールじゃないでしょうか。
――それは"飲みやすいビール"とは違うのでしょうか?
秀島:よくおいしいビールを指して、「このビールは飲みやすい」という言い方をされますが、とても解釈の幅が広くて難しい言葉だと思っています。というのも、「飲みやすさ=軽さ」という思い込みが、そこにはあるような気がします。飲みやすいビールが軽いビールを指すならば、この「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」のようなビールは、飲みづらいビールということになってしまう。
――そう言われると、「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」は飲みやすいビールではありますが、軽さとは正反対です。
秀島:ビールのおいしさの表現は難しいんですよね。コクとかキレとかいっても、お客様それぞれがイメージするものは微妙に違う。私たちもつい、「このビールは飲みやすいね」なんて言ってしまうのです。
――むしろ、その表現の難しさにこそ、ビールのおいしさの正体を解く鍵があるのではないでしょうか?
秀島:そうかもしれません。
――では、反対に"飲みづらいビール"とは何でしょう?
秀島:うーん、それは個性が強すぎるビールかなと。苦味や香りが強すぎて、何杯も飲んでいられない。そういう意味では、おいしいビールの定義とは、"飲み飽きないビール"といえるのかもしれません。
――なるほど! 「飲み飽きない」とはいい表現ですね。
秀島:つまり、ビールには「おいしいけど飲みづらい」もあり得るし、そもそも「飽きるまで飲めない」もあり得る。そのどちらでもなく、「おいしくて飽きない」を目指したのが、「マスターズドリーム」なのだと、今振り返って思います。
――では、今後の「マスターズドリーム」が目指すのは、どんなビールでしょうか?
秀島:先ほども話したように、海外にはいろんなビールがあり、その違いを愉しむ文化があります。しかし日本はビールといえば、ほとんどの人が同じようなもの、同じような味わいをイメージする。ワインやウイスキーのようなものになっていないのです。
これからも「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」のようなビールをつくっていくことで、ビールは非常に多様なものであり、おいしさにもいろんなバリエーションがあるのだということを知っていただきたいです。その分、愉しみ方も色々ある。
――そのためにも、多くの方に「マスターズドリーム」、そして「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」を味わってもらいたいですね。今年もまたお披露目されますね。
新村:そうですね。研究は去年のお披露目以降も続いていたので、今年も世に出すことができる運びとなりました。
そもそも、木樽はひとつひとつ違うので、個性の異なる木樽とビールとの相性の見極めが重要なんです。私たちは木樽の個性も見極めながら、微妙な調整を重ねて「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」をつくっているんですよ。飲み手においしいと感じてもらえるような、味わいのバランスに今年も仕上げられるのではないかと思っています。
――「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」は特別なビールである理由がわかりました。ありがとうございました。