スペシャル
2017年9月 8日
ひたすらにうまさだけを追い求める、サントリービールの醸造家たちの夢が詰まった「ザ・プレミアム・モルツ マスターズドリーム」。発売以来、多くのビール好きの心を捉えてきた味わいには、もうひとつの形があった。
それが昨秋に発表された「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」。「マスターズドリーム」で培った技術と、伝統的なビールづくりに起源を持つ「木樽熟成」という手法で生まれた新たな夢の結晶だ。
本マガジンでは3回のシリーズとして、この「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」の開発にかかわったキーパーソンを取材。第1回目となる今回は、開発チームの中心人物である、サントリービール株式会社 商品開発研究部の新村杏奈が登場する。
ひとくち飲めばやわらかな苦味と深いコクを感じ、そのあとでほのかな甘味が口いっぱいに広がる。そして、飲み干す際には鼻にすっと芳ばしい麦芽の香りを感じる。
"多重奏で、濃密な味わい"と表現される「マスターズドリーム」には、サントリー醸造家たちのこだわりが詰まっている。
例えば素材だ。麦芽は深いコクとうまみを生むダイヤモンド麦芽を使用。ビールの本場・チェコの伝統種の系譜を継いだもので、今ではわずかしか生産されていないという。
ホップは苦味と香りのバランスが上品な欧州産アロマホップ。それらを良質な天然水で仕込み、麦芽とホップの長所を最大限に引き出した。
製法にも工夫が凝らされている。新村がこう語る。
「『マスターズドリーム』はトリプルデコクションという特殊な製法を採用しています。デコクションとは、麦芽を糖化する際に、仕込釜で煮出す製法のこと。ダイヤモンド麦芽はとても硬い麦芽なので、うまみを抽出するためには、この作業を3回繰り返す必要があるんです。とても時間と手間がかかる製法ですが、そこまでやることで、『マスターズドリーム』という夢のビールが生まれます」
完成までに10年の歳月を費やしたという「マスターズドリーム」だが、醸造家たちの歩みは止まらなかった。「マスターズドリーム」の開発で培った技術を活かし、新たな高みを目指したのだ。
その新たな高みとは、「木樽熟成」という伝統的なビールづくりの手法で、新しいビールをつくること。
「私たちが考える"夢のビール"がかたちになったことで、新たな高みを目指していきたいという想いが生まれました。『マスターズドリーム』とはまた違う特徴を持つ、今までにない世界感を持ったビールをつくりたいと考えたんです。そのため、いま主流のステンレスタンクを使った方法ではなく、伝統的な木樽を使った熟成に挑戦しました」
しかもサントリーには、ウイスキーづくりで培った木樽が財産として多くストックされている。実は日本でこそあまり見ないが、海外のビールづくりにおいては、ワインやウイスキーの木樽でビールを寝かせる製法は珍しいものではない。樽の特徴である甘くなめらかな味わいがビールに拡がることから、こうした製法でつくられたビールを特に愛好する人も多い。
そこで新村を中心とする開発チームは、木樽熟成に挑戦することにした。しかし......。
「結局、2011年にスタートしてから、完成まで5年かかりました。まず、サントリーのどの品種や履歴の木樽なら、私たちが考える理想のビールができるのかで悩みました。試作を繰り返して、山崎原酒を熟成した木樽に決まってからも、樽ごとに個性が違うので、その見極めにもとても苦労しました」
そうした苦労の果て、2016年に初披露となった「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」は、どのような特徴を持つビールに仕上がったのだろう?
「私たちが考えたのは、『マスターズドリーム』よりも長い時間軸で愉しんでいただくビールです。ひと口ごとにゆっくり味わい、飲み干したあとも余韻が長く残るようなビール。もともとの『マスターズドリーム』も、じっくり味わっていただけるビールですが、こちらはさらに長い余韻を意識して開発していきました」
そのため、この「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」もまたマスターズドリームと同じように、キンキンに冷やして飲むようなドライなビールとは味わいがまったく異なっている。むしろ、温度が上がっても豊かな香りや深いコクは消えず、冷えているときとは違った顔つきを見せてくれる愉しみがある。
アルコール度数は8.5%と一般的なビールよりも高いが、飲みづらさは一切感じない。むしろ、いつまでもこの味を愉しんでいたいと思わせる魅力が、「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」にはある。
言葉にすると陳腐に聞こえるかもしれないが、まさに「今までに体験したことのない味わい」だ。
その未体験の味に触れてみようと、昨秋の初お披露目では1,000本限定のプレゼントキャンペーンに7万件もの応募が殺到。しかも、実際に飲んだ人々からの反響が大きく、「商品として売ってほしい」「もっと飲みたい」という声が数多く届いた。
その中には、そんな夢のビールを実現したサントリーに対する感謝の言葉を長文のブログに綴った人もいたという。新村は開発者として、こうした反響にどう感じたのか?
「自分たちが満足のいくビールが完成したこともうれしかったですが、何よりもこの『マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉』を通じて、ビール好きの方々に、商品だけでなく、サントリーという会社のことも好きになってもらえました。そうした声に触れたとき、これをつくって本当に良かったと、涙が出るくらいうれしかったです」
まさにビールづくりへの尽きることのない情熱が、「マスターズドリーム〈山崎原酒樽熟成〉」という逸品を生み、大きな反響を呼んだ。次回はそんな新村の先輩でもある、サントリービールの醸造家・秀島誠吾との対談を通して、「マスターズドリーム」というブランドが目指すビールの真髄に迫る。