プロが教える気の利いた手みやげ

「あげた人の日常に溶け込んでいったら嬉しい」
第3回 伊賀大介さん

2017年11月10日

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貰って嬉しいものと、ちょっと困るものに境界線はあるのだろうか。知人の家に招かれたときに自分が持参したものは、気に入ってもらえるのだろうか......。しかし、困ったときはその道のプロに話を聞こう。今回手みやげを紹介してくれるのは、スタイリストの伊賀大介さんだ。

伊賀さんが教えてくれたのは、山形で1789年に創業した醤油蔵・山一醤油で、一子相伝でつくられ続けている「あけがらし」。昨今では映画『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』『バケモノの子』、またミュージシャンのMVやCMなどでも衣装を手がける、日本のカルチャーを牽引するスタイリストが「あけがらし」を選ぶ訳とは?

■ひょんな拍子で知人から貰ったものがお気に入りに

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仕込み芥子糀に麻の実をあしらった無添加自然食。山一醤油が受け継いできた、いにしえの食材。単品650円、和紙箱2個入1,500円、和紙箱3個入2,100円(全て税抜き)http://akegarashi.jp/framepage1.htm

元々は親交の深いアートディレクターの方から貰ったんですよ。「これはあまり売って無いんだけど、すごく美味しいから」って言われて。それで、貰って帰って来た日に炊きたてのごはんに乗せて食べてみたら、これがすこぶる美味い。びっくりしましたね。

原料を見ると、「米麹」「芥子」「麻の実」「生絞り醤油」「三温糖」と書いてあって、言葉を選ばずに言えばものすごく特別なものが入っているわけではないんですけど、魔法でもかかっているんじゃないかってレベルで美味いというね。それからは、うどんに入れたり蕎麦に入れたり、あとは納豆とか......。これひとつでなんでもいけちゃう魅力があります。

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家に帰ってくるとまず適当な部屋着に着替えて冷蔵庫からビールを出してくるんですけど、帰りの時間が遅いと「ビールに加えて何か欲しいけど、そこまで肴もいらない」ってときがあるじゃないですか。そういうときは、小さい皿にあけがらしをちょっとだけ出して、ちびちび舐めながら飲むんです。麻の実がピリッと効いてて、ビールがすすむんですよ。

ただ、どこでも買えるものじゃないので、見つけたら買い溜めて、大事に味わう。朝は米にのせるし、夜はビールとかと一緒に酒の肴として活躍してくれるんで、万能な必殺技って感じがして気に入ってます。

■返事が遅くなっても良いという魅力

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自分でもめちゃくちゃ良いと思っているものなので、自然と人にもあげたくなるという気持ちはやっぱりあります。それと、シンプルに美味いってのもオツ。「コレにはこんな歴史があって......」みたいな語りもあってもいいと思うし、実際にあけがらしも語ろうと思ったらいくらでも話のネタはあるんです。でも、何にも特に予告しないで、「ちょっと珍しいものなんだけど、美味いから。まあ、食べてよ」と。それで実際食べてみて「何コレ!」となってくれたら嬉しい。

あと、あけがらしのいいところはすぐに食べなくていいってことですかね。家で開かれるパーティみたいな場では、当然そのときに食べないとダメになってしまうものから消費されていきますし、ちょっと間違うと余ってしまってもったいない。でも、あけがらしは瓶詰めなので、すぐに消費する必要がないんです。

それともうひとつ。封を開けるまでに時間がかかると、返事が遅くなる。今の時代、メールに動画のURLを貼って送って、観た人はすぐに感想を返すみたいなやりとりもそこここで生まれているし、良さもあるんだけど、ゆっくりな交流があってもいいかなと思うんですよね。お礼にタイムラグがあって良いって、お互い気楽じゃないですか。

そして何日か経って、「そういえば伊賀がこんなものを持ってきていたな」と思い出して食べてみたらハマって......みたいなね。日常のなかに置いても良いと思ってもらえるのが僕は結構好きなんです。スタイリングの仕事でも、着てくれた人が自分の選んだ服を気に入ってくれたらあげちゃったり。自分がきっかけで、その人の日常の中に新しい楽しみが生まれたら最高だなって。だから、久しぶりに会った人が自分のあげた服を着ていてくれてたりすると、本当に嬉しい。

■出会い方で変わるものとの関わり方

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一過性だったかもしれないものも、ちょっとした出会い方だったりで日常に溶け込んでいって、それが生活の一部になっていくじゃないですか。多分、そのときだけだったら気づかない魅力とかもある。僕だって、もしあけがらしを貰ったタイミングがすぐにその場で封を開けるシチュエーションだったら、ごはん以外でも蕎麦で試して納豆で試して、小皿に出してビールの肴に......とかならなかったかもしれないですから。

ひとつのものが日常に入り込むと思わぬ発見がありますよね。そういう意味では、ビールも乾杯のお酒としてだけじゃなくて、日常的にゆっくり飲むってことがあってもいいかもしれない。冷やしてグッと飲むのに向いているものもあれば、そうじゃないものもあるので。そのときは、本当にあけがらしの出番ですよ。時間をかけて酒と愉しむのに向いてますから。

伊賀大介(いが・だいすけ)

1977年西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇と領域を限らず携わり、文筆業もこなす。スタイリングを手掛けたものに、『ジョゼと虎と魚たち』『モテキ』『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』など

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