その逸品ができるまで

素材本来の味を引き出す鍋・バーミキュラが「暮らしを変える鍋」になるまで
――愛知ドビー代表取締役社長・土方邦裕 副社長・土方智晴インタビュー

2019年8月 8日

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そこにあるだけで、生活が豊かになるもの――。愛知ドビー株式会社が開発した鋳物ホーロー鍋ブランド「バーミキュラ」には、使う人の想像力や好奇心を引き出す魅力がある。彼らが目指した「こだわりの逸品」ができるまでの歴史、そして製品に込められた想いを、愛知ドビー株式会社 代表取締役社長・副社長を務める土方邦裕氏・智晴氏に聞いた。

■プロにも家庭にも評価される鋳物ホーロー鍋・バーミキュラ

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約3年もの開発期間を経て完成した無水調理ができる鋳物ホーロー鍋「オーブンポットラウンド」

智晴:「主婦には『主婦のために作られた製品だ』と喜んでもらえるし、プロの料理人には『プロが使うものだ』と喜んでもらえる。一番重要なのは、そうやって誰が使っても『自分のための製品』だと思っていただくことなんです」

愛知ドビー株式会社の代表取締役社長・土方邦裕と、副社長・土方智晴は、自社製品の魅力についてそう語る。二人の兄弟が生み出した鋳物ホーロー鍋・バーミキュラは、「材料を入れて、加熱するだけ」というシンプルな調理法ながら、密閉性の高さによって無水調理による幅広い料理を実現する。発売開始以降「野菜やお米が美味しく調理できる」という口コミが広まり、2018年12月時点にはシリーズ累計出荷台数50万台を突破した。

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鋳物ホーロー鍋の密閉性と精密な温度コントロールで絶妙な火加減調整を実現した「バーミキュラ ライスポット」

なお、理想の火加減を調整できる鋳物ホーロー炊飯器「バーミキュラ ライスポット」は、2019年1月以降「VERMICULAR Musui-Kamado」と新たに名付け、調理器としてアメリカでの販売を開始。トップシェフらは製品の絶妙な「火加減」に注目し、熱が伝わる再現性を称賛した。

智晴氏は「ライスポット」を開発した背景について、自身が料理をするときに感じた火加減の重要性から「絶対に調理を失敗せず、自分の想像を超えた味が出せる鍋」を作ろうと決めた、と語る。彼らが常にアイディアを得るために大事にしているのは、感動や不満、残念さ、といった日常の中の"違和感"だ。

智晴:「ちょっとした感覚に気づくことが重要なんです。感動をお客さんに味わって欲しいからこそ、違和感からさらに新しい機能を考えます」

■名古屋の町工場が3年かけて挑んだ「世界最高の製品」づくり

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少しの隙間も許さない製造過程。職人は製品を叩いた音を頼りに、0.01ミリ単位の調整をしている

しかし、この調理器具を完成させるまでに苦難の連続があった。もともと鋳造技術と精密加工技術を中心に、ドビー機という繊維機械の製造をしていた愛知ドビー。1936年から続く老舗の町工場は、バブル崩壊後、日本の繊維産業の衰退により、不安定な状況を経験する。

先代である「愛知ドビー」2代目社長・土方一久氏の長男であり、愛知の総合商社で為替ディーラーを務めていた邦裕氏は、2001年、経営を持ち直すべく、愛知ドビーに入社。2006年には、自動車メーカーで原価企画に携わっていた弟の智晴氏を呼び込み、協力して経営の立て直しを図る。2人は鋳造技術、精密加工技術を習得しながら、工業部品の下請け会社として徐々に経営状況を回復させる。しかしかつてドビー機を製造していた頃のように職人たちの自信や誇りを取り戻すには至らなかった。

邦裕:「最初はいい下請けになることを目指していました。でも、それで売り上げをどれほど伸ばしても、消費者から感謝されるようなものを作る存在にならないと、職人の誇りは取り戻せないと感じたんです」

2007年、鋳物が調理に適していること、そして「無水調理」が料理を美味しくすることを知った二人は、愛知ドビーで培った技術を使い、密閉性の高い鋳物ホーロー鍋の開発に着手する。

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愛知ドビー代表取締役副社長・土方智晴氏

智晴:「耐久性の高いものや時短調理できる鋳物ホーロー鍋はあっても、密閉性の高いものはありませんでした。密閉できる鋳物ホーロー鍋を作れば、無水調理が実現します。素材本来の味を引き出せる"美味しさ"を極めた製品で挑めば、世界一になれると考えたんです。そして僕たち自身が世界最高のものを作ることで、町工場の誇りを取り戻そうと考えていました」

鋳造や精密加工の技術はすでに備わっていたが、ホーロー塗装技術だけは愛知ドビーになかった。当初は「ホーロー塗装技術さえあれば実現できる製品」だと考えていたという。だが、実際に開発に協力してくれる企業を探すべく国内各所のホーロー工場へ問い合わせたところ、「難しい」という返答ばかりだった。鋳物にホーローを焼きつける、という技術は難易度が高く、どの工場も開発を断念していたのだ。

かろうじて一社だけ協力会社を見つけたが、試作品第1号はまったく上手くいかなかった。そこから、彼らのトライアンドエラーの日々が始まる。海外の鋳物ホーロー鍋と比較し、時には水の成分など非常に細かな要素に着目しながら、完成までに約3年もの月日を費やした。

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愛知ドビー代表取締役社長・土方邦裕氏

邦裕:「実際の開発は想像以上に難航しました。製品を完成させるために思いついたアイディアを、試しては失敗する毎日。ネットや書籍で徹底的に調べあげ、大学の研究所にも問い合わせ、様々な専門家に話を伺いながら知識を吸収しましたね」

製品開発を通し、時には心が折れそうになったという。だがある時、奇跡的に上手く仕上がった試作品があった。智晴氏がその試作品を使ってカレーを作ってみたところ、驚くべきことが起きる。なんと社長が苦手な人参を口にし「美味しい」と言ったのだ。

智晴:「その時の出来事が『完成すれば確実に多くの方に喜んでもらえる』という確信を生みました。こだわりを持ち続けるモチベーションにもつながりました」

邦裕:「料理が美味しくなる、とまではイメージしていたのですが、ここまで野菜が美味しくなるとは想定外でした。椎茸嫌いな人に鍋で調理した椎茸を食べさせても、やはり同じ反応。自分たちが開発しようとしている製品の可能性を感じました」

■持っていると生活が豊かになる製品を目指す

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愛知県名古屋市にある「愛知ドビー」本社。"町工場"のイメージを刷新するスタイリッシュなデザインが特徴

そうして長年のこだわりの末に完成したバーミキュラは、実際に使った人の「美味しい」という感想とともに徐々に広まっていった。町工場が生んだ鋳物ホーロー鍋は、今や世界中の様々な国で愛される存在に。二人は土地ごとのシーンに合わせ使われるバーミキュラについて、印象的なエピソードを語る。

智晴:「あるとき、バーミキュラが異国の地で焚き火にかけられているのを見てびっくりしました。どこの土地の人も、あらゆる環境下で上手に火加減を調整しながら使ってくれるんですよね。水が悪い場所に住む人々が無水調理をし、素材の水分だけで作った料理を『美味しい』と言ってくれるのは嬉しかったです」

邦裕:「実際僕らが直接製品の説明をしに行っても、海外のシェフは製品を見た瞬間に、その場で野菜を準備し始めるんです。使い方を説明せずとも『野菜を入れてセットすればいいんだよね』と直感で動いてもらい、その土地ごとの料理を自由に作ってもらえます」

今、愛知ドビーでは最高のバーミキュラ体験ができるような複合施設を建設するなど、人々がブランドに触れる機会を増やそうとしている。二人が伝えたいのは、製品が単なる「生活家電」ではないということ。彼らはバーミキュラを、iPhoneのように「利用者の生活をより豊かにする存在」だと捉える。

智晴:「僕たちは家電ではなく、あくまで料理をする上での"最高の道具"になるものを作りたいと思うんです。それを使う自分を好きになったり、使っている姿を見てもらえて嬉しくなるような製品を目指しました。

自分の予想を超えた楽しみがある調理器具を使えば、料理や生活が楽しくなる。楽しくなると人を家に呼びたくなったり、生活への考えが変わったりします。それが僕たちの目指す感動です。そのためにはいかに使い続けてもらい、喜んでもらえるかを考えるのが僕らの役割。そして感動をいかにシェアしていくかも今後の課題となります」

「次は何を作ろうか」と想像力の膨らむ鋳物ホーロー鍋・バーミキュラ。「素材本来の味を引き出せる鍋を作ろう」という発想から始まり、長年挑み続けたこだわりが、実際に手にとって使う人々に驚きと感動をもたらしている。そして製品は国境を越え、料理を楽しむためのあらゆるニーズに応えながら、人々の生活を豊かにしていく。

土方邦裕(ひじかた・くにひろ)

1974年、愛知県生まれ。大学卒業後、豊田通商で為替ディーラーを務める。2001年、祖父が作った愛知ドビーへ入社し3代目として家業を継ぐ。鋳造技師の資格を持つ技術者でもある。

土方智晴(ひじかた・ともはる)

1977年、愛知県生まれ。大学卒業後、トヨタ自動車に入社。原価企画などに携わる。2006年、兄邦裕の要請に応えて愛知ドビーに入社。精密加工技術を習得し、バーミキュラ全製品のコンセプト策定から製品開発までを主導する。

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