その逸品ができるまで

「豊かな時間をつくりだすもの」が出会って生まれた万年筆
――ノートルメルシー代表 堤信子インタビュー

2018年4月 3日

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マスターズドリームは醸造家の夢とこだわりの結晶だ。そんなビールと三越伊勢丹が、2016年にコラボレーションした万年筆「recolte(レコルト)」もまた、つくり手の熱い想いが詰まっている。今回登場するのは、この万年筆をプロデュースしたフリーアナウンサーの堤信子。これまでに文房具や雑貨をテーマにした旅エッセイ本などを上梓し、ステーショナリープロデューサーとしても活躍する彼女が、万年筆に込めたものとは。

■時間を豊かに過ごす人に届けたかった

「recolte(レコルト)」は、フランス語で「実り」の意。琥珀色のボディにはビールの泡を想起させるラメが散りばめられ、廻り止めには「豊かな時間を過ごしてほしい」という思いから、豊かさの象徴である麦の穂とホップと、堤の大好きな数字である数字の「1」があしらわれている。ビールと文房具の組合せなど聞いたことがないが、見事にお互いの要素が絡み合った佇まいとなっている。ただ、なぜビールをモチーフにした万年筆をつくろうと思ったか......。堤は、次のように語る。

「伊勢丹さんから『オリジナルの文房具をつくらないか』という話はかなり前からあったんです。ただ、なかなか製作までいたりませんでした。それは万年筆が好きな人はもちろん、万年筆に馴染みのない人にも使ってもらいたいと思っていたからで、そのピースが思いつかなくて......。

でもあるとき、マスターズドリームと出会って『あ!』と。味がふくよかで香りも良く、色も綺麗。気になって調べてみると、時間、労力、醸造家の熱意など、さまざまなものがかたちになって生まれたということを知ったんです。そして、このビールを飲むひとは、時間を豊かに過ごしていて、自分なりのこだわりを持っているだろうと漠然と思いはじめて、『マスターズドリームのようなビールが好きな人は、きっと万年筆も好きに違いない』と考えました」

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コーヒーを愛する堤。マスターズドリームを初めて飲んだ時に、こだわりの豆から淹れたコーヒーのおいしさとマスターズドリームのおいしさにどこが共通点を感じたと言う。

しかしながら、考えているだけでは万年筆はできない。言うまでもなく、つくりてがいなければいけないのだ。堤が選んだのは、日本を代表する文具メーカー・プラチナ万年筆だった。

「初めて手にした万年筆は父親の形見で、それがプラチナ万年筆でした。書き物が好きな父が万年筆を走らせる姿には幼い頃から憧れていたんです。万年筆を手にして使うことが、私にとって大人の象徴だったんだと思います。だから、なんとしてでもプラチナ万年筆の職人さんにつくっていただきたかったんですよ」

とはいえ、ビールと万年筆は、業界で類を見ないコラボレーションだ。お互いの接点もどこにあるのか全くわからない。まず堤が最初にしたことは、とてもシンプルだった。

「プラチナ万年筆さん、サントリーさん、伊勢丹さんの三者をつなぐお見合いをしたんです。プラチナ万年筆の社長さんにはマスターズドリームを飲んでいただき、サントリーさんにはプラチナ万年筆を使っていただく。そこでお互いに「いいですね」という空気が生まれたんですね。

そこで私は『このこだわりのビールを愛する人たちに、この万年筆の良さを伝えたい。コラボレーションがちょっとでもその橋渡し役になれば』と。すると双方が『それならば』とおっしゃってくださったんです」

こうして、堤により三社が引き合わされたことで唯一無二の存在感を放つ、持つ人の時間を豊かにする万年筆の製作は始まった。ただ、ここで特筆しておくのは、「レコルト」には原型になった万年筆が存在するということ。それが、プラチナ万年筆のフラッグシップモデル『#3776』である。

「万年筆を使いたくないと言う声の最大の理由は『しばらく使わないとインクが出てこない』というものです。『#3776』はスリップシール機構というプラチナ万年筆が開発した特別な技術が搭載されていて、2年間使わなくてもすっとインクが出てくるんですよ。また飛行機など気圧が変わるところでも、インク漏れを起こしません。職人さんが生み出したすばらしい万年筆なんです」

普遍の魅力を放つ万年筆と、醸造家がつくる夢のビールとの邂逅。またとない組合せが、ここに実ったといえる。

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「かねてから1という数字が入った万年筆を作りたかった」と堤。「レコルト」で初めて万年筆を使う人にとっての「1」と言う意味も込められている。

■1つの箱に収めた「想い」

万年筆のデザインの他に、「レコルト」の最もこだわった点の一つとして、堤はビールと万年筆を1つの箱に収めたことを挙げた。

「私にとって万年筆で文字を綴る時間というのは、すごく大切なゆっくりとした時間なんです。お酒を好きな人が、マスターズドリームを飲みながら万年筆で文字を綴り、それがその人の大切な時間になったら......という想いがあって。また万年筆が好きで、まだマスターズドリームを飲んだことがない人にも、マスターズドリームを飲んでもらいたい。そんな思いから、どうしてもこの2つをひとつの箱に収めたかったんです」

また、堤は箱を開けた時の印象にもこだわったと言う。

「開けた時に『わっ』って喜んでもらえるような美しいルックスにしたくて、箱もスリーブもいちから作りました。中のペンを入れる土台部分は最初、紙で試作が届いたのですが、ヴェルヴェットに変更してもらいました。また、色も万年筆のボディが目立つように調整してもらいました。箱の上面や、インクのボトルラベル、中に入っているポストカードに使った書体は、昔、パリの看板などに使われていた書体なんです。本屋でデザインの分厚い本を何冊も購入して、この理想の書体を見つけ出しました」

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堤は家の中にこの箱をいくつも飾っているという。「本当に一つひとつにこだわったので、自分用のものはスポンジ一枚、すべて捨てられないです」と笑顔を見せた。

箱の素材に「木」を選んだことにも理由がある。

「購入後、万年筆や紙を入れる箱として使って欲しかったんです。なので箱に『レコルト』と書かれた万年筆デザインのロゴだけを印刷してもらいました」

細部までこだわった品が完成したのは発売の直前。発売前日に、伊勢丹の屋上で万年筆とマスターズドリームを箱に詰める作業を行い、無事に発売日を迎えた。

「ビール好きの方が『レコルト』で万年筆デビューをしてくださったり、逆に万年筆が好きだから、『レコルト』を買って初めてマスターズドリームを飲んでそのおいしさに感動なさったという方がいて、それが私はとても嬉しいんです。『レコルト』がささやかながら万年筆の世界とビールの世界を繋いでくれたと思っています」

つくりての夢が込められたビールと万年筆、そしてその2つを繋いだ「レコルト」。人々に豊かな「実り」ある時間を与えるものづくりには、細部まで徹底してこだわる姿勢と情熱があった。

堤 信子(つつみ・のぶこ)
福岡県福岡市生まれ。フリーアナウンサー。日仏友好協会理事。1985年、FBS福岡放送入社。95年に同社を退職しフリーに転向。NTV「ズームインスーパー」、TBS「はなまるマーケット」など朝の情報番組でレギュラーを長年務める。昭和女子大学、青山学院女子短期大学、法政大学、明治学院大学兼任講師、エッセイストとしても活躍する。近著に『旅鞄いっぱいの京都ふたたび』(実業之日本社)、『旅鞄いっぱいのパリふたたび』(実業之日本社)がある。

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