その逸品ができるまで
2017年11月21日
サントリービールの醸造家たちが、「まだ世界のどこにもない、心が震えるほどうまいビールをつくりたい」と願い、長い時間をかけ試行錯誤した末に辿りついた夢のビール、マスターズドリーム。醸造家たちの夢の結晶を味わうには、グラスが重要な鍵を握る。
サントリーの醸造家と確かな技術を持った職人たちにより始まった「味を探しに行ける」がコンセプトのグラスづくり。これまで長きに渡り製作の過程を追ってきたが、ついにガラス、陶器、錫(すず)を材料として各2種類ずつ、計6つのグラスが完成した。
このグラスづくりに携わってきたサントリーの醸造家・秀島誠吾が、初めて完成したグラスにマスターズドリームを注ぎ、試飲。はたして醸造家は個性豊かなグラスから、どんな味を見つけるのか――。
サントリー醸造家と職人とのこれまでのグラスづくりについてはこちら
オリジナルグラスとは別に、マスターズドリームの新たな一面を見せてくれるグラスをつくりたい。そんな思いから始まり、木本硝子の木本誠一氏、陶芸家の釋永岳氏、錫師の山中源兵衛氏とともに、このグラスづくりは進められてきた。
「ガラスはどのような形にするか、私も意見を言わせてもらいましたが、釋永さん、山中さんにお会いした後、彼らがどうつくり上げてくださったのか、非常に楽しみですね」
まずそう切り出す、秀島。早速、6種類のグラスを見ると「直感的に、錫の丸いグラスが目に留まりました。陶器の素焼きのグラス、ワイングラスのようなガラス製のグラスも面白い」と第一印象を語る。
いよいよマスターズドリームを注いで試飲、さらにそれぞれのグラスに名をつける。だが、その前に秀島は何も入っていない空のグラスを鼻に近づけた。
「我々醸造家は官能検査をするとき、ビールを注ぐ前のグラスの匂いを必ず確認しています。なぜならば、久しぶりに使うグラスはホコリの匂いがついている場合がありますし、新しいグラスでもたとえば梱包していた箱の匂いが移ってしまうことがあるんです。そうなってしまうと、きちんと香りを評価できませんよね」
注意深くすべてのグラスの匂いを嗅ぎ、表面の状態も確認した秀島。問題ないと判断すると、まず錫のグラスにマスターズドリームを注いだ。
左が湯呑み型、秀島が手に取っているのが丸型のグラス。「丸型のグラスは、半分くらい飲んでからテーブルに置くとビールの色がグラスの内側に映り美しい。こうした視覚的要素も重要ですね」(秀島)
錫を材料としたグラスは、全体感として丸く飲み口がすぼまったもの、そして湯呑みのような形のものがつくられた。
両方のグラスを交互に飲みながら、秀島がまず言及したのが「温度」だ。
「金属である以上、触感が冷たいのが錫のグラス。中の状態は外から見えませんが、その代わり触覚でよく冷えたビールを飲んでいるという実感を味わせてくれるものだと感じました」
また、飲み口の大きさも味わいに違う印象を与えると続ける。
「湯呑み型のグラスは、一度に口の中に入るビールの量が多くなります。すると味と香りが一気に広がるんですね。反対に丸型のグラスは、流れ込む量が少なくなります。ワインを飲むときのように、ビールを舌で転がしながら、1つひとつの細かな味を見つけるにはちょうど良い」
続いて、陶器。
素焼きのグラスにビールを注ぐ秀島。特に泡立ちが豊かなグラスとなった。手前が釉薬を施したグラス。
こちらは素焼きのグラスと、上部に釉薬を施したグラスがつくられているが、それぞれにマスターズドリームを注ぐと、秀島は「泡がきちんと立つね」と呟いた。陶器は全体に釉薬を塗る場合もあるが、今回製作した釉薬を使ったグラスも底部だけは素焼きの状態となっており、細かな泡が生み出される。全体が素焼きのものは豊かでまろやかな泡を愉しめるグラスだ。
「マスターズドリームをつくったときの話に立ち返ると、泡の味もビールの液体と同様に愉しんでほしい、との思いがありました。ただ、サーバーがないと泡の量を多めにするなどの調整は難しい。しかし、陶器のグラスならば、〝泡の味〟がはっきりと感じられるはずです」
さらに秀島は、陶器ならではの温度感があるとも続ける。
「先ほどの錫のグラスはまさにビールの温度そのものを直に感じられるものでしたが、それとは別の意味の温度感が陶器のグラスにはあります。感覚的、感情的な温かみとでもいいましょうか。ビールを生み出したメソポタミアの人々も、土器を使ってこんな風に飲んでいたのかもしれないですね」
最後はガラスだ。
2つのグラスを一目見て、秀島はまず「ライブリーですね」との感想を述べた。
「ライブリーというのは、我々が官能検査のときによく使う言葉で、生き生きした感じといえばわかっていただけるでしょうか。ビールは、麦やホップといった生の農作物が原料ですから、ライブリーな味わいにすることは非常に重要なんです。そして、このグラスには切子で麦が描かれていますよね。生き生きとした麦の姿のおかげで、視覚的にライブリーさを感じられるところが良いと思います」
左がワイングラス型、右が三角錐型。はっきりと色の違いがわかる。
ビールを注いでみると、同じガラスが材料といえども、2つのグラスの違いが愉しめる。直線的なデザインの三角錐型のグラスは鮮やかな黄金色に映るのに対して、ワイングラス型はウイスキーのような琥珀色に映る。これはグラスの厚みを増すと色が濃く映るためであり、こうした色合いを堪能しながら飲めば、味わいも変わってくる。
「三角錐型に注いだビールは香りが一度に鼻へと抜けるのに対して、ワイングラス型は細かな香りの1つひとつを嗅ぎ分けられやすいといった、グラスの特性による違いももちろんあります。ただ、ビールをつくるときは風味だけでなく液体や泡の色などといった『外観品質』にも、我々醸造家は非常に気をかけます。それほど、見た目というのは重要なものなんです」
左から、「くちびるから味わうグラス」「舌でころがすグラス」「まろやかな泡のグラス」「味がひらくグラス」「広がる香りのグラス」「重厚感とコクのグラス」
そして、これら6つのグラスに、個性にあった名前をつける。最初に、ガラスを素材にしたグラスを手に取りながら、秀島はこう話す。
「まず三角錐型のグラスですが、見た目も、喉越しも、重厚感があります。喉越しの重厚感というのは、苦味のことであり、さらに言い換えればコクのことです。なので、このグラスは『重厚感とコクのグラス』と名づけたい。そしてワイングラス型は『広がる香りのグラス』という名前がふさわしいのではないでしょうか。先ほどもお話したように細かな香りの違いや変化を感じられるもので、さらにその香りは広がりも見せるのが理由です」
陶器のグラスは、土が原料という素朴さ、ライブリー感を生かしながら、具体的な味わいも表現できる名前にしたと、秀島は話す。
「素焼きのグラスは、やはり泡立ちが素晴らしい。今まではサーバーで注がないと感じづらかった泡の味がしっかりと表現できるものになりましたので『まろやかな泡のグラス』としましょう。上の方に釉薬を塗った逆三角形のグラスは、泡立ちはもちろん、時間の経過によって出てくる味わいや質感の変化が、土という素材によってうまく表現されています。この変化は〝ひらく〟とも言い換えられますので『味がひらくグラス』と命名したいですね」
錫のグラスは、この素材ならではの温度感をテーマにしたネーミングになった。
「湯呑み型のグラスの飲みくちを見てください。すこし傾斜がついていますよね。これがあることで、ビールの冷たさがダイレクトにくちびるへと伝わります。そこで『くちびるから味わうグラス』という名前が良いと思います。丸いグラスは、両手を添えたくなることも印象に残りましたが、それ以上に、ゆっくりとマスターズドリームを味わえるグラスであることをお客さまにお伝えしたい。そこで『舌でころがすグラス』と名づけましょう」
醸造家と職人たちによる6つの「味を探しに行けるグラス」は、ここに完成した。秀島はこのグラスならではの愉しみ方を次のように勧める。
「『味を探す』をコンセプトにつくったグラスなので、お客さまにはさまざまな味を見つけ愉しんでもらいたいんです。となると、1個のグラスで飲んでみるだけでは、味を見つけたときの感動が1個分しかなくなっちゃいますよね。普段、家で使っているグラスや、この中のいくつかのグラスを飲み比べてみてこそ、味の違いがわかります。だから、ガラスのグラスのペアを1対、いや、錫と陶器などといったように2対のグラスで飲んでいただきたい。また、同じグラスでマスターズドリームとザ・プレミアム・モルツの両方を注いで飲み比べるといった愉しみ方もできるはずです」
6つの「味を探しに行けるグラス」は、伊勢丹新宿店限定で発売中(オンラインでも購入可)。醸造家とつくり手たちの化学反応によって生まれたグラスで、マスターズドリームに込められた様々な味わいを探す旅に出てみてはいかがだろうか。
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