その逸品ができるまで

「陶器で目指すのは、時を感じるグラス」その逸品ができるまで〜第5回〜

2017年9月 8日

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サントリービールの醸造家たちが、「まだ世界のどこにもない、心が震えるほどうまいビールを作りたい」と願い、長い時間をかけ試行錯誤した末に辿りついた夢のビール、マスターズドリーム。醸造家たちの夢の結晶を味わうには、グラスが重要な鍵を握る。

サントリー醸造家の秀島と陶芸家の釋永がグラスについて語り合った第4回では、土着感のあるグラスが、マスターズドリームの魅力をより引き出し、また日本のビール文化の醸成にも一役買えるのではないかという話にいたった。第5回では、釋永が用意したグラスサンプルで秀島がマスターズドリームを飲み、陶器のグラスの完成像を明確にしていく。

「土」をキーワードにグラスサンプルを制作したという釋永。そしてこの「土」には、陶器の原料となる土ならではの質感だけではなく、「土着」も込められていることが第4回ではわかった。また、この土着は、人々にとっての親しみにも置き換えられるという。そこから釋永は、人がマスターズドリームを飲む時間がどのように流れていって欲しいかも考え、サンプルグラスを制作したことを明かした。

■これは、"人がどのように飲むのか"から考えてつくった

釋永:マスターズドリームを実際に飲んで、作ろうと思ったイメージは「一人」。休日など、自分の時間に本でも読みながら一人酒をするという。大人の男性や女性が時間を愉しむというようなイメージ。そのため、都会の洗練のようなイメージからは遠ざけようと考えました。

あえてざらざらした土臭い感じの方が、時間や経年変化を感じられて優雅な気持ちになれると僕は思うんです。

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また、釉薬のかけ方によって、泡が立ちやすくなったり、逆にすぐに消えたりするところも土の面白さです。土は水分を吸い込む性質があるのですが、磁器は浸透性がなく染み込まない。この、右端の釉薬をかけていない器は泡が立ちやすいので注ぎ方が難しいです。ただ、こうした器は使えば使うほどお酒が器に馴染んでいくという育てる愉しみもあります。まあ、泡が出すぎるといってしまえばそうなので、それはデメリットになるかもしれませんが......。

秀島:泡が多めに出ることは、まったく悪いことではありません。日本だと7:3の割合という既成概念がありますよね。昔、チェコに行った際に飲んだのですが、泡の量を基準にしたビール通のみが知る裏メニューがあったんです。泡を少なくして飲むものと泡を半分くらいにして飲むもの。泡を7割くらいにして飲むものもありました。

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今はその飲み方もメジャーになって、隠しメニューではなくなったようですが......。そう、だからあえてたくさんの泡を楽しむという方法もあります。いろんな味を愉しむという意味では、泡が多く出るグラスがあってもいいかなと。泡が出やすいのは陶器の自然な特徴ですし。

釋永:そうですね。そういう特徴はありますし、ガラスのようなつるつるの器だとたくさんの泡はできない。

秀島:ガラスや金属にはできないことを活かすグラスがあってもいいかなと。泡が立ちすぎると困りますけど。ビールの歴史をさかのぼれば、ガラスのグラスなんてなくて、みなさん陶器のジョッキで飲んでいた時代もありましたから。

釋永:しかし、泡の比率が7:3が基準になっているのには何か理由があるんですか?

秀島:その比率に合うよう、味の設計をしているんです。見た目でもおいしそうと思っていただきたいという想いがあるため、泡と液体の比率も考えたうえでビールをつくるんです。しかしながら、それも愉しみ方のひとつ。繰り返しになりますが、あえて泡を愉しむのは良いことだと思っています。良いビールは、泡もうまい。

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釋永:そう言っていただけると嬉しいです。泡の量をどうにかしてコントロールしないといけないのが、正直悩みどころではありました。一番簡単なのは、使う前にグラスを一度水にくぐらせたり、グラスを凍らせたりすることなのですが、そうやってお客様に何か手間をかけさせることはできません。釉薬を塗ることで表面がつるつるになるため、泡の量は減らせるのですが、ちょうどいい頃合いはなかなか難しい。

秀島:釉薬がかかっているのは、器の黒く色がついている部分ですか?

釋永:そうです。茶色い部分は素焼きの土の状態です。この素焼きの部分がとにかく泡をものすごく出す。

秀島:では黒い部分が多いグラスは、釉薬をたくさんかけて泡をおさえるタイプということですね。

釋永:そうです。ただ、内側すべてにかけるということはしていません。それは土で作っている意味がなくなってしまうので。土らしさは残したいところですよね。

■誰にも平等に過ぎていく時を贅沢に感じるために

秀島:釉薬のかけ方と形......陶器はやはり奥が深いですね。

釋永:個人的には、中央にある真ん中が膨らんでいる形のものが、一番オススメではあります。だるまみたいでかわいい形。僕が休日にだらだらと庭でも見ながらビールを飲むことになったら、迷わずこの形を選びます。

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秀島:手のひらに入る、この形は良いと思います。重みも適度にありますし、味の重厚感ともマッチする。またこの丸みに香りが溜まるという利点もあります。先程時間をかけるという話がありましたが、ビールも時間が経つと香りが咲いてくる。ワインのようにビールが愉しめるグラスかもしれません。

釋永:グラスを使うのは男性だけではないので、女性の手のひらにもフィットするように考えたんです。女性は小さい器で飲むのを好む人もいますし。

秀島:女性もこのグラスを持ってビールのある時間を、長く感じられるといいですね。方向性としては、まず釉薬を塗っていない素焼きのもので泡も愉しむ。もう一つの方向性としては、真ん中に膨らみのあるフォルムのもので釉薬の塗り方にバリエーションをつけ、泡の量を調整して楽しめるようにしていくといったところでしょうか。

釋永:なるほど! だいぶ見えてきた気がします。今日の秀島さんからのお話を受けて、もう一度一人で考えてつくってみます。次お会いするときは、もっとマスターズドリームらしいグラスをお渡しできると思います。

秀島:楽しみです。じっくり飲む時間を提供し、時間の経過によって変わる香り、使い込みによって器が成長する......これは、時(とき)を感じるグラスと言っても良いかもしれませんね。

「土着」からどのようにビールを飲みながら過ごすか、またどのように愉しむかを考えていきたどり着いたのは「時を感じる」というワードであった。秀島との邂逅によって得られた新たなテーマを元に、釋永はどのようなグラスに仕上げるのだろうか......。次回、秀島は陶器の次の素材を目指して富山から京都に向かう。

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