その逸品ができるまで

「味をより引き出すために、土をテーマに考える」
その逸品ができるまで〜第4回〜

2017年9月 1日

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サントリービールの醸造家たちが、「まだ世界のどこにもない、心が震えるほどうまいビールをつくりたい」と願い、長い時間をかけ試行錯誤した末に辿りついた夢のビール、マスターズドリーム。醸造家たちの夢の結晶を味わうには、グラスが重要な鍵を握る。

そこでサントリー醸造家の秀島は、マスターズドリームの「多重奏で、濃密。」な味わいをより愉しむには、様々なグラスをつくることで数多の味に飲み手が出会いやすくなると考えた。秀島いわくそれは「味を探しに行けるグラス」。第3回までは、ガラスのグラスを基準に形状から味を探すための可能性を探った。

そして自身のなかで新たなグラス像を描きはじめた秀島が次に考えたのは、素材の違いの面白さだという。第4回では、他に類を見ない発想と最先端の技法を駆使し独創的な作品をつくり続けている、とある陶芸家と秀島との交流を描く。

「ガラスの形状や厚みを分析することで、グラスづくりの指針が明確になってきました。形状が見えてきたとすると次はガラス以外で何か考えたいと思うんです。例えば......陶器とか......」

木本硝子が提案したグラスサンプルを吟味したあと、に秀島はこんな話をもらしていた。

しばらくして、秀島のところに嬉しい知らせが届いた。内容は、富山に申し分ない陶芸のつくり手が見つかったという。

その陶芸家は、話を聞くとマスターズドリームを取り寄せて飲み、「このビールであれば自分の技術を注ぎ込んで器をつくりたい」とグラスづくりを了承した。そして早速制作に取り掛かり、試作品を用意して拠点である富山で待っているのだそうだ。名は釋永岳。富山県の古い町並みを残す岩瀬町で、陶芸の伝統的な手法を踏襲しつつも、「いまの時代に、自分がつくる意味」と向き合い、革新性をもって制作に勤しんでいるつくり手である。

「『伝統と革新』はマスターズドリームのフィロソフィーともつながります」と秀島は話し、釋永が工房を構える富山は岩瀬町に向かった――。

■マスターズドリームの器は、「土」がキーワードになる

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秀島:まず、マスターズドリームを飲まれたとき、どのようなことを感じられましたか? 率直にお聞かせください。

釋永:正直、ビールは喉越しやキレを愉しむものだと思っていた節があったことに気付きました。これまで自分が飲んできたビールに比べて、マスターズドリームはうまみや甘み、苦味など様々な味が感じられて、非常に重厚な味だなと。

秀島:ありがとうございます。このビールは、味わいが幾層もあって、口の中でハーモニーが広がることを目指してつくりました。そう言っていただけて嬉しいです。

釋永:そう、だからはじめ困ったんですよ。普段、僕は薄いグラスをつくることが多いんです。繊細な、陶器なのに光にかざせば透けるような。しかしながらこのビールには、"いつもの自分"で勝負してもフィットしない。繊細なグラスよりも、重厚感のあるたっぷりしたグラスの方が優雅に感じられるような気がしたんです。

秀島:そうですね。私も薄いグラスよりも重厚感があるものの方がマスターズドリームには合うのではないかと考えています。「しっかり、どっしり、しかし柔らか」といいますか......。

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釋永:やっぱりそうですよね。薄いグラスはかなりテクニックが必要なのであまりつくれる人もいなくて、そういったものを今回もつくったら飲む人も喜んでくれるかとはじめは考えたのですが、違ったんですよ。それよりも土の香りといいますか、土の温かみを感じられるグラスの方が味わいを深く感じられると思いました。なので、僕の考える心地の良い形と重さを試行錯誤してサンプルをつくりました。

秀島:土ですか、なるほど......。我々のビールづくりも、自然の恵み、そのおいしさをいかにビールに反映するかを考えています。原料は水と農作物が基本です。なので、土というキーワードは、とてもフィットするイメージだと思います。

■日本のビール文化に土着の概念を生み出すために

マスターズドリームの味を引き出すためには「土」がキーワードになる―--。釋永の提案に、秀島は納得の表情を見せた。そしてこの「土」が、ふたりを日本のビール文化そのものを考えるという話題にまで導いていく。

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釋永:実は僕、普段は日本酒を飲む機会が圧倒的に多いんです。もちろんビールも飲みますが、1杯や2杯でそのあとは日本酒。僕に限らず、はじめにビールを飲んでそのあとに違うお酒を飲むという人は多いですよね。「はじめはビールで!」なんて言葉も、人とお酒を飲むとよく聞きますし。ただ、ドイツとか海外に行くとずっとビールを飲んでいる自分がいるんですよ。土地柄に自分が影響されているのかどうかはわからないですが。

秀島:その土地のもつ気候などに影響されることはあるでしょう。チェコやドイツはビール大国。ビールが生活の一部になっていて、例えば、日常会話をレストランでビールを飲みながら楽しんでいる。

なぜそんなに飲み飽きずたくさん飲まれるのだろうか、どんな味が好まれるのだろうかと考えたのがマスターズドリームをつくったきっかけのひとつでもあります。濃密だけどいつまでも気持ちよく飲み続けられるビールをつくろうという。

釋永:日本にいると1杯や2杯で終わってしまうというのは不思議ですよね。

秀島:そうですね。食べ物やいろいろな理由があるとは思うのですが、やはり文化的にまだまだビールは日本に浸透しきっていないと私は思っています。もっともっと飲むことが当たり前になったときに、ビールは日本の飲み物になるのではないかと......。

ドイツ語では「ヴァイタートリンケン」という言葉があります。「ヴァイター」は「さらに、引き続いて」という意味、「トリンケン」というのは「ドリンク」。つまり、何杯飲んでもおいしくて、たくさん飲めるということ。日本の「ヴァイタートリンケン」をつくるのがマスターズドリーム開発の命題で、ビールができたら次は環境・文化づくり......ということで、グラスに目が向いたわけです。

釋永:なるほど......なんだか、僕が「土」をキーワードにしようと思ったのは間違ってなかった気がしてきました。日本の土で、日本人に飲まれるためにつくられたビールの器をつくるのは、面白い試みになりそうです。

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秀島:ビールは日本にとってまだ土着の飲み物ではないんです。それを土着させていくために、器を土でつくるのは本当にすばらしい。ビールの美味しさは、ビールの味だけでは決まりません。グラスの重さや手触り、質感も重要なファクターです。

釋永:そう考えると、僕が土でどれだけ勝負できるかですね。荒々しいところだったり、素朴さを全面に出したりすると、土だからこそ得られる質感とマスターズドリーム自体が相まって、相乗効果が得られるような気がします。

マスターズドリームの新たな愉しみ方を見つけるためのグラスを考えはじめたら、日本のビール文化をいかにして深めていくかという話に行き着いた秀島と釋永。次回は、釋永が「土」をキーワードにしてつくったというグラスサンプルから、さらに方向性を割り出していく。

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