その逸品ができるまで

体験を届ける重要性 ものづくりは"語れる"ものがあるかがカギ
――対談 amadana代表取締役社長 熊本浩志×醸造家・川崎真吾(後編)

2017年8月21日

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日本に、世界に――多くの人に受け入れられるプロダクトをつくるamadanaの代表取締役社長 熊本浩志とサントリーの醸造家・川崎真吾。家電とビール、手がけるものは違っても、持たなければならないマインドに共通点は多い。対談の後編は、「SNS、デジタルの時代でものづくりに求められること」に、話題が移った。

■あえて「ものづくり」を否定する

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amadanaの携帯電話3機種とスマートフォン。「スマホが出てきたときには危機感を覚えました。これまでメーカーの存在が強かったのが、アプリをつくったりサービスを提供したりする会社の方が優位になることが容易に予見できましたから」(熊本)

熊本:今回は、「ものづくり」をポイントにした対談ですけど、実を言うと僕、ものづくりという言い方が嫌いなんですよね(笑)。いや、「ものづくり」という行為自体はもちろん大好きなんですけど、あえて言葉は否定している。

川崎:なぜですか?

熊本:日本人にとって、何か聞こえが良いといいますか、尊いものと捉えちゃうじゃないですか、「ものづくり」という言葉は。そこにあぐらをかきたくない、自分の目を曇らせたくないとの思いがあります。先ほど、変化に対して保守的な日本の家電メーカーの話をしましたけれど、彼らも「ものづくり」という言葉に囚われてしまった一面があるかもしれません。自分が変わり続けるためには、あえてものづくりを「否定する」というのも1つの手段だと僕はいつも思っているんですよ。

川崎:変化という点でビール業界のことをお話しすると、正直なところ縮小している時期にあるんです。だからこそ、新しいものを出して新しい市場をつくることが大事だと考えています。熊本さんは、ご自身の仕事を時代に合わせていこうと考える方ですか? それとも逆に、「自分で時代をつくっていく」と考える方?

熊本:よく聞かれるんですけど、両方ですね。ただ、より大切なのがきちんと風を読んで、自分がどちらの方向に行くべきか、どうやって攻めていくべきかをよく考えることだと思います。結果を出すために追い風に乗る選択もすれば、逆風の中に身を置くという場合もありますね。

■「フローとストック」が時代を読むカギ

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川崎:amadanaさんはレコードプレーヤーを2年前につくられて、ヒットしています。デジタル全盛の時代に、どのように風を読まれて、つくられたのか教えてください。

熊本:レコードプレーヤーの場合は、単純な「時代がデジタルだから、逆張りした」という話じゃないんですね。実は、デジタルのことがよくわかっていないと、なぜ人がアナログを欲するのかがわからない。そういう意味では、追い風に乗ったともいえるかな。

川崎:ほう。といいますと?

熊本:レコードが見直され、そして流行したのが、今から約3年前。実はこの時期に、楽曲の定額制サービスが始まったんです。聴き放題のことですね。定額制が生まれた瞬間、音楽は守られた「権利」ではなく、さほど高くないお金さえ払えば世界中の誰もがアクセスできる「情報」に変化した。でも、人間の心理はバランスを保とうとするから、反動として「ストックするもの」を欲するようになったんだと考えました。

川崎:ストックに当たるものがレコードだった......。

熊本:そうです。だから、単に「デジタルが嫌いだからアナログを使う」とか「雰囲気に惹かれてレコードを聴く」というわけじゃなくて。今の時代にレコードを聴いている人って、実はめちゃくちゃデジタルで音楽を愉しんでいる人なんですよ。繰り返しになりますが、そのように音楽が「フロー」している環境に身を置いてしまうと、人の心理は「ストック」しようとする。このフローとストックの関係に着目しないと、なぜアナログ回帰が起こるのかはきちんと理解できないんです。

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川崎:なるほど。そう聞くと、人の心理って面白いと感じます。

熊本:同じことはほかの事例でもいえるんですよ。たとえばインスタグラムはサービスが終了しない限りは、いつでも友達や著名人の写真を見られたりします。これはデジタル上での「フロー」です。では、「ストック」に当たるものは何かといえばチェキ(インスタントカメラ)でしょう。コーヒーも、コンビニでもドリップコーヒーが飲めるようになり、サードウェーブが流行したのも、類似の事例といえるでしょうね。

川崎:今までも関心がなかったわけではありませんが、やはり日本の外で何が起こっているのか、あるいは、ビール以外の業界で何が起こっているのかを知るのって、とても大切ですね。すごく勉強になります。

■SNSとライフスタイル

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マスターズドリームの味わい深さに感動した熊本の想いから誕生した本格ビアサーバー「BEERGO(ビアルゴ)」。サーバーとしての優れた機能だけでなく、インテリアとしても成立するデザインを実現させた。

熊本:僕も、今日川崎さんとお話しできたこともそうですが、家庭用の本格的なビアサーバーをつくらせてもらったことはすごく勉強になりました。サントリーさんも変化をつくり出す試みは続けていらっしゃいますよね。まず、ザ・プレミアム・モルツが出て、次にマスターズドリーム。マスターズドリームのものづくりには感動です。

川崎:正直に言うと、私自身は1人でじっくりビールを飲むより、人と一緒に外でワーッと飲むのが好きなタイプなんです(笑)。ただ、お客さまに話を聞くと「飲み会をするのは月1~2回くらいかな」という人が多いんですよね。そうなると、やはり家でゆっくり飲む機会が増えてくるわけで、"特別なビール"の存在価値も出てきます。それをつくる私たちが、愉しむシチュエーションにまで気を配らないといけないとも思いますね。たとえば、今日の話に出たようなレコードでBGMをかけるとか相応しいおつまみがあるとか......。amadanaさんのビアサーバーを家に置くというのもそう。誰かを招いて飲むとき、話題にできます。

熊本:ありがとうございます。そう聞いて思い出すのが、「衣食住」とはよく言ったものだなぁ、ということ。なぜかというと、ライフスタイルのトレンドってまずファッションが来て、次に食べ物が来て、最後に家電や家具などに関連する住の順番で、巡ってるんですよ。だから、そのサイクルに注目していれば、先ほど言った風も読めると思うんです。

川崎:そうなんですね。

熊本:ええ。で、「住」に目を向けると、今の家ってキッチンやリビングを広くとって、寝るスペースは小さくていい、というつくりになっています。何が言いたいのかというと、川崎さんが仰ったように友達を家に招くケースが昔以上に増えて、昔の間取りとは違って、キッチンもあえて人に見せる空間になり、家族以外の人がリビング以外の場所にまで入ってくるケースが生まれているんです。そこで、友達に見せられる空間だったり、自慢したくなるモノ、SNS映えする、そのフォトジェニックな存在だけで何かを語れるものが必要になる。マスターズドリームは、まさに「語れる」ビールに当てはまるものですよね。ビアサーバーもインテリアとして成立する「語れる」佇まいを意識してデザインしたモノのひとつです。

川崎:ビアサーバーと一緒のところの写真がシェアされたら、多種多様な人の共感を呼びそうです。

熊本:ビアサーバーだったり、誰と飲んでいるかとか、雰囲気ある場所で飲んでいるかなんていうことも大事ですよね。僕はこれまで、ビールは1杯目に飲むものでしたが、マスターズドリームに出会って変わりました。最後の1杯にまた飲みたくなる、まさに「語りたくなる」ビールとしても愉しめて、従来のワインやウイスキーに置き換えることができるものじゃないかな、と思います。僕にとっては、好きな音楽を聴きながら、好きな本を読みながら、時に自分と向き合いながら、じっくり味わいたい存在です。ビールに限らず、僕はモノゴトを色々な角度からみて、色々な愉しみ方を見つけるのが好きなんです(笑)。

川崎:そこまでコンセプティブに考えて、サーバーをつくっていただいたんですね。醸造家として参考になります。

熊本:マスターズドリーム自体が、本当に考えさせてくれるビールですから。先ほども同様のことを言いましたけど、僕もビアサーバーづくりは「世界で戦えるモノ」をつくるとはどういうことかを、見つめ直すいい機会になったんです。

熊本浩志(くまもと・ひろし)

1975年宮崎県宮崎市生まれ。amadana株式会社代表取締役社長。大学卒業後に大手家電メーカーにて家電商品の販促企画、商品企画を担当し、2002年に退社。その後は27歳で株式会社リアル・フリート(現 amadana株式会社)を設立、オリジナルブランドamadanaを立ち上げる。以降、NTTドコモをはじめとする企業とのコラボレーションやパートナーシップを次々に発表し、一気にブランドを浸透させ、2015年には、ユニバーサルミュージック社と協業ブランド「Amadana Music」を発足。世界へ向けて新たな事業展開を加速させ、体験を軸としたプロダクト展開を繰り広げている。

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amadana × MASTER'S DREAM
MASTER'S DREAM「醸造家の夢」に敬意を表し、誕生した本格ビアサーバー。
▼amadana 本格ビアサーバー<BEERGO(ビアルゴ)> 詳しくはこちら。

http://ieno-bar.suntory.co.jp/shopdetail/000000000197/ct13/page1/recommend/

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