その逸品ができるまで
2017年8月21日
サントリーの醸造家たちが、「まだ世界のどこにもない、心が震えるほどうまいビールをつくりたい」と願い、長い時間をかけ試行錯誤した末に辿りついた夢のビール、マスターズドリーム。醸造家たちの夢の結晶を味わうには、グラスが重要な鍵を握る。
こだわりある飲み手達がビールの愉しみ方を広げるグラスを作るべく、醸造家と日本の伝統技術を継承している職人たちが逸品を作り上げるまでの軌跡を追う連載「その逸品ができるまで」。第3回目では、5つのグラスでマスターズドリームを飲んだ秀島が、新たなグラスの方向性を決める。
前回、グラスサンプルでマスターズドリームを飲み比べながら、それぞれの特徴を語った秀島。 さらに、「ビール会社は、当然ビールをつくって売っているのですが、実はお客様がビールを飲んで美味しいと思う体験を最終的には売っています。一つのビールブランドのためにグラスを作ることの意義は、ビールを飲む体験そのものを象る役割を担うことで、非常に重要なこと」と語気を強めていた。
そう、秀島はこのグラスに「醸造家たちが考える、マスターズドリームの世界観の再現性」を託しているというのだ。その世界観とは、静かなバーでウイスキーを口の中で転がすような、酒と対話をする空間と時間。醸造家たちがマスターズドリームを通して見る景色を、このグラスを通して飲み手にも味わってもらいたいという思いが込められているのである。
そして、ついに秀島はグラスサンプルの中から自身のイメージに合う代物を選ぶわけだが、その前に一度、前回彼が語ったそれぞれへの特徴をおさらいしたい。
画像左から、(1)ピルスナー型、(2)ワイングラス型、(3)三角錐型、(4)黒切子、(5)黒切子とフロストデザイン。秀島はこれらを次のように述べた。
(1)ピルスナー型
「オリジナルグラスに近い形。径が狭い分、ビールの味と香りが共に一気に口に流れ込んできます。味わいも非常にシャープです」
(2)ワイングラス型
「香りを感じるためのグラスと言えばいいですかね。ピルスナー型のグラスと比べると径が広いため、口全体に味が広がる。味と香りの総量も、こちらの方が格段に多く、特にコクと旨味が際立ちます。色味に関しては、マスターズドリームらしさという点で考えると、色の濃いこちらの方がイメージに近いです」
(3)三角錐型
「元来のオリジナルグラスとワイングラス型のいいとこ取りをしたものと言ってもいいです。ピルスナー型のグラスに通ずる、喉にダイレクトに来るタイプのグラスではありますが、グラス内に香りがこもるため、よりビールに重みを感じられます」
(4)黒切子
「薄くて軽いので、マスターズドリームを味わうには、グラスの厚みが足りないように思います。今回求めているものとは遠いところに位置しますね」
(5)黒切子とフロストデザイン
「味の重みを感じられるグラス。巷にはうすはりのビアグラスが増えている中で、こうした重厚感のあるものは珍しい」
そして、これらの中からグラスで秀島が最終的にピックアップするのは、ワイングラス型、三角錐型、黒切子とフロストのデザインの三つ。
まず丸みを帯びたボリューム感のあるフォルムが特徴のワイングラス型、これは先にもあったが5つの中でも「香りを感じるためのグラスだ」と秀島は評価している。
「味のみならず、香りの変化を楽しむことができるのもマスターズドリームの特長です。そのポテンシャルを最大限に引き出すことができる形と言えるかもしれません。ただし、ひとつだけ難点は、直径が大きいために泡消えが早いこと。金色の液色と白い泡の黄金比と言われる7:3の割合を再現するには、ビールを注ぐ際に少々テクニックが必要でしょう」
次に三角錐型は、秀島が元来のオリジナルグラスとワイングラス型のいいとこ取りをしたグラスだ。「ピルスナー型と同じく、喉にストレートに来るタイプのグラスとしては、じっくりと味わうという点では物足りないという人もいるかもしれませんが、香りの総量や味の重厚感はピルスナー型以上です」。
最後に存在感のある黒切子とフロストのデザインは、「味の重みを感じられるグラス。このグラスの堂々とした面持ちは『多重奏で、濃密』という、マスターズドリームのアイデンティティとも親和性を感じます」
秀島が追い求める「味を探しに行けるグラス」のベースが出来上がった。今後は、3つのグラスをベースに微調整を施していく。そして「わたしの想いが職人さんの手でどのようなグラスとなって現れるのか楽しみです」と話す秀島の顔には、満足げな笑みがあった。
最後に秀島は、「ガラスはとりあえずこれでおおよそ決まり」と一言。「ガラスは」とはどういうことかと聞くと、「他の素材でもグラスをつくってみたら、よりマスターズドリームの愉しみ方も広がっていくと思うんです」と話す。今後は、ガラスのグラスはもちろんのこと、ビールの飲み方に新たな視点を与えるグラスが登場するかもしれない......。
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その逸品ができるまで〜第3回〜