ビールの肴になるカルチャー
2018年1月25日
世界一有名なビール批評家は誰かと問われたら、多くの人がマイケル・ジャクソンの名前をあげるだろう。ミュージシャンのマイケルではなく、著書『世界ビール大全』などを上梓し、多くのビールを世に紹介した人物である。まさにKING OF HOPな男だが、KING OF POPのマイケルにも、ビールにまつわる話がある。しかもそこには、誰もが知る名曲が絡んでいる。
これまで数多くのミュージシャンが、素晴らしい作品を送り出してきた。その中でも随一の売上を誇るアルバムがある。それが、マイケル・ジャクソンが1982年にリリースした『スリラー』だ。同アルバムは今日までに1億1,000万枚以上のセールスを記録している。
タイトルトラックでシングルカットされた楽曲「スリラー」のホラー映画風ミュージック・ビデオが話題になったことも勿論だが、ザ・ビートルズのポール・マッカートニーとのデュエットソング「ザ・ガール・イズ・マイン」や、ロックギタリストであるエディ・ヴァン・ヘイレンがソロを弾いている「ビート・イット」など、楽曲だけでなく参加ミュージシャンも豪華。プロデューサーは、クインシー・ジョーンズだ。字で追うだけでも、その時代のスターが集結した大傑作である。
マイケルの成功の裏舞台を追った書籍『マイケル・ジャクソン帝国の栄光と転落、そして復活へ』(※)によれば、当時マイケルは『スリラー』をつくるにあたり<真に偉大なものを作ろうと......僕は自分に言い聞かせた。『今に見ていろよ、次は誰にも無視できないアルバムを作ってみせる』>と語っていたそうだ。
マイケルがここまで本気になっていたのには訳がある。それは前作『オフ・ザ・ウォール』が、グラミー賞の最優秀賞を逃したことだった。同作も会心の出来であったが、<黒人アーティストは長年既存の音楽業界から軽く見られ>(※)ており、今回もそうであったのだと感じたとのことだ。そして既成概念を覆すことができる作品づくりを決意したのだという。
そんなマイケルの意思を実現するために、楽曲プロデュースとともに大物ミュージシャンのレコーディング参加に力を注いだのがクインシー・ジョーンズだった。ここにビールが大きく絡んでくる。
<ジョーンズは、ビールの6缶パックふたつでヴァン・ヘイレンの気を引き、「Beat It」でイカしたギターソロをかましてくれと言ってスタジオに呼び込んだ>(※)
大物ミュージシャンを12本のビールで誘ったジョーンズには驚きだが、ヴァン・ヘイレンもこれを好意的に受け止め無償で演奏をOK。名曲のギターソロには、とんだエピソードが隠れていたのだ。
そしてこのあと、ヴァン・ヘイレンには思わぬサプライズが待っていた。『スリラー』の翌年、ヴァン・ヘイレンはバンドでアルバム『1984』をリリース。発売から2ヶ月で100万枚突破した大ヒットアルバムであったが、チャート1位を遮ったのはなんと『スリラー』で『1984』は2位。会心の出来の新アルバムは、自らが参加した別アーティストの作品に1位を阻まれてしまったのである。
ただ、1984年に行われたジャクソンズの「ヴィクトリーツアー」にて「スリラー」が演奏される際にヴァン・ヘイレンは飛び入りでソロを披露しているし、その後もマイケルとは仲が良かったようだ。ビールが生んだビッグスターの出会いと楽曲は、今も多くの人々に愛されている。
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