ビールの肴になるカルチャー

"とりあえず"ではないDJ的ビールとの付き合い方――大谷ノブ彦さん

2018年1月16日

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居酒屋やバーに入り、多くの人がまず最初に頼むのがビール。乾杯の音頭を取るにあたり、すぐに提供されるビールほど適したものはない。しかし、そんなビールも場所により音楽により愉しみ方は大きく変わってくる。お笑い芸人としてだけでなく、DJとしても精力的に活動する大谷ノブ彦さんに、分かちがたく結びついたビールと音楽の関係について教えてもらった。

■ビールは"土着"の匂いを強く感じさせる

その音を聴くと、どうしてもビールを飲みたくなる音楽というものがあります。僕にとってのそれは、アイリッシュパンクの世界的バンド・Flogging Mollyの『Drunken Lullabies』ですね。

19世紀半ばに国民の数が半減するほどの大飢饉に見舞われ、長い間イギリスからの支配を受けてきたアイルランドの音楽は、閉塞感があるからこそ底抜けに明るく、祝祭的な性格を帯びたものが多いんです。『Drunken Lullabies』は、アイリッシュミュージック伝統のバンジョーやアコーディオンなどを用いたパンクロック。僕はこの曲を聴くと、仕事終わりに大騒ぎしながら黒ビールを飲む炭鉱夫の愉しそうな顔が浮かびます。

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考えてみると、そうした印象を持つようになったのは、高校生のときにアイルランドの映画『ザ・コミットメンツ』に夢中になったからかなと。将来の成功を夢見てインタビューを受ける練習を繰り返す主人公・ジミーは、友人のデレクとアウトスパンと"労働者"のソウルバンドを結成するんですが、まあそう順風満帆にはいかないっていう青春映画で......。

生まれ故郷の大分県佐伯市に住み、悶々とした日々を過ごしていた当時の僕の境遇と、曇り空ばかりの炭鉱夫の街で閉塞感を募らせる主人公たちの姿がピッタリと符号したんでしょうね。夢中になって観ているうちに、炭鉱夫たちが仕事終わりに音楽を聴きながらパブでビールを飲む姿が、母親の経営するスナックでハイライトを吸いながらビールを飲む地元の漁師たちに重なった。

今でもアイリッシュミュージックが鳴ると、自然と身体がビールを欲する。僕にとってのビールは、映画で観た風景と自分が生きた原風景が重なる。"土着"の飲み物なんですよ。

■お酒を美味しくするのは"環境"

ちなみに、僕のビール歴で最も記憶に残っているのは、北海道のジンギスカン屋「だるま」で飲んだビール。凍えるほど寒い外から、暖房がガンガンに効いた店内に入ったからか、喉がカラカラで、そのときにキンキンに冷えたビールを飲んだら最高に旨かった。ビールをはじめ、お酒ってめちゃくちゃ環境に左右されると思います。だからこそ、僕の場合はお酒を飲むときに周りの環境をすごく大切にするようにしているんです。

また、これは昔から決めていたことなんですが、レゲエとスカを聴くときは必ずラムコークを飲むんです。やっぱり、ジャマイカの音楽を聴くと、ジャマイカのお酒が飲みたくなって。実際にSKA BARに行ってみると、メニューの1番上にラムコークが載っていて、「俺は間違ってなかった」と思ったのを覚えています(笑)。ちょっと脱線しましたけど、とにかくシチュエーションとお酒の組合せって超重要なんですよ。

■"とりあえず"ではないビールとの付き合い方

ここ何年か、音楽の鳴っていない場所でお酒を飲んだ記憶がないんです。最近だと、怒髪天やミッシェル・ガン・エレファントなどのバンドもアイリッシュの要素を取り入れていて、そういった音楽をDJとしてかけるときには、やはりビールが欠かせない。プライベートでは「カンパーイ!」とか滅多にしないんですけど、楽しい音楽が鳴る、このときだけは自ら乾杯してしまうんです。

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あとは、音楽の都・ニューオリンズの生き証人とも言われる、ドクター・ジョンをかけるときもビールが欲しくなりますね。ドクター・ジョンの出世作として有名なアルバム『ガンボ』は、お葬式のときに鳴る音楽、セカンドラインにルーツがある。ニューオリンズには古くからお葬式の際にブラスバンドが音楽を奏でる文化があって、ファーストラインと呼ばれる親族たち先頭集団の後ろで演奏されることから、この音楽のことをセカンドラインと呼ぶんです。人が亡くなるという最大級に悲しい出来事があったときに、底抜けに明るい音楽で人々が踊り歩く。こういう土着感に触れると、僕はやっぱりビールが飲みたくなるんですよね。

お笑いにしても、僕がダウンタウンさんを好きなのは、大阪でも神戸でもなく尼崎の出身だから。ビートたけしさんも、東京出身と言えども山手線の内側ではなく、雑多な下町だから。ハイソではない土着感のある人が、お笑いをやっているというところに、僕はたまらなく惹かれる。お酒も同じです。僕にとってビールは、音楽含め周りの環境と分かちがたく結びついた、ちょっと特別なお酒なのかもなって思います。

大谷ノブ彦(おおたに・のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ・ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある

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