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ビールの肴になるカルチャー

映画に登場するビールには、時間をどう贅沢に過ごすかが映っている ――水道橋博士

2017年8月 7日

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乾杯し、泡を口に付けながら飲み、そしてジョッキを空にする――数々の映画作品の中にも、ビールは至るところで登場する。しかし、それは単なる小道具ではない。あるときは登場人物の思いを代弁し、あるときは作品の背景を語る存在でもあるのだ。タレントとしてだけでなく、テレビ・ラジオ番組や雑誌で映画評論を行う水道橋博士が、「映画の中のビール」を教えてくれた。

■映画作品に表れた"象徴としてのビール"

「早く大人になって、ビールを飲んでみたい」

ボクの心に、最初にそんな感情を根付かせてくれた作品が、『風の歌を聴け』。大森一樹監督の映画化作品が公開されたときもそうだったけど、それより前の村上春樹の原作が発表されたとき、ボクはまだ10代だった。成人を迎える前の少年少女が持つビールのイメージって、「新橋でサラリーマンのお父さんたちが飲むもの」だと思う。それが、昼間からひたすらビールを飲みながら、デレク・ハートフィールドの小説について考えるという主人公の姿は、とても衝撃的だった。こんなにお洒落に、高等遊民みたいに、ビールを飲む人がいるのか、って。

そのせいもあり、今でも休みの日に昼からビールを飲むと、特別な、贅沢な時間を過ごしているなと感じる。また、"昼からビール"という点で思い出す映画が『グラン・トリノ』。主演のクリント・イーストウッド扮する老人コワロフスキーは、朝鮮戦争に出兵した経験があり、そして自動車メーカーのフォードで50年、工員として勤めた男。ただ、戦争で心に傷を負ったことから頑固な性格になり、家族からは嫌われ、デトロイトの外れにある星条旗がなびく家で孤独に暮らしている。グラン・トリノはフォードがつくっていた車の名称で、「強いアメリカ」とブルーカラーである主人公の誇りの象徴だろう。

このイーストウッドも、作中ではずっとビールを飲んでいる。昼夜問わず。ちなみに、彼が飲んでいるビールは労働者階級の人々が好むもので、グラン・トリノ以外のアメリカ映画でも、比較的よく登場している。

つまり、過去の繁栄、現在の孤独、男の人生......といったメッセージや作品の背景を、監督でもあるイーストウッドは、車にとどまらずビールにも語らせているということだ。

そう考えていくと、ビールの役割の一つには「労働の対価」がある思う。別に『グラン・トリノ』みたいなしびれるストーリーじゃなくても、先に出た「新橋のサラリーマンたちが飲むもの」というイメージは的を射ているわけだ。

映画から実生活に視点を移しても、昭和の茶の間の風景には「野球のテレビ中継」、「それを観るお父さん」、そして「ビール」がセットで並んでいるところが思い出される。仕事を終えた昭和のお父さんたちは、野球中継を観ながらビールを飲んで慰められていた。

だから、映画の中でビールがどのように描かれているかを追っていくと、その時代時代の家族観や労働観も見えてくると思っている。

■映画とビールと時間について考えると......

もちろん、純粋にビール文化、お酒を飲む文化を描いた映画もある。それに当たるのが『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』だろう。ストーリーは、主人公の中年男がかつての仲間たちと一緒に、学生時代に達成できなかった「12軒のパブをハシゴする記録」に挑戦、しかし映画が後半に進んでいくとSFへと展開していき......というもので、イギリスのパブ文化もきちんと描写されている。たとえば、ビールを飲んだら誰だって用を足したくなってしまう。でも『ワールズ・エンド』では、仲間同士でビールを飲むときはトイレに行かないという「我慢大会」のパブ文化が描かれている。要するに、これはコミュニケーションとしてのビール。もし、"掟"を破ったらどうなるかというと......罰ゲームがあるから、ぜひ作品を観てもらいたい。

と、作中にビールが出てくる名画を3作挙げたが、飲みながら観るとなるとちょっと趣向が変わってくる。映画を観るにはそれなりの時間が必要で、その時間にビールがあるというのは至極贅沢なこと。だからこそ、アサイラムの「シャークネード」シリーズを挙げたい。

アサイラムというのは、アメリカの映画会社。名作のパロディ映画、便乗映画が多くて、「シャークネード」シリーズは『ジョーズ』に便乗してつくり始めたんだろうな。1作目は『シャークネード サメ台風』というタイトルで、空から降ってくるサメに立ち向かうっていうパニック映画だった。それが人気を博し、今年は何と5作目『PLANET OF THE SHARKS 鮫の惑星』が公開された(笑)。少なくともタイトルだけは、アノ映画のパロディになっていて、この時点で面白い。

こういう映画は、ゲラゲラ笑いながらリラックスして観られる。それは何より贅沢な瞬間。日々の忙しい時間と自分を隔絶して、気持ちに余裕を持って、何の役に立つかもわからない......いや、何の役にも立たないであろうものを観て笑いながらビールを飲んでいるわけだから。

またアサイラムの場合、CGのクオリティがかなり高いんだよね。昔のB級映画だと、特撮部分だけ不自然に見えたり、出番待ちの出演者が見切れていたり......なんてことがあったけど。すごくくだらないのに、CGにこだわっていると言うのも面白いでしょう。そして、こういうものを心から面白がれる時間って大切。ビールに軸を置いて映画を考えると、時間をどう豊かに過ごすかと向き合うことになるから不思議だね。

水道橋博士(すいどうばしはかせ)

1962年生まれ。岡山県出身。大学中退後、たけし軍団入りし、玉袋筋太郎とコンビ「浅草キッド」を結成。お笑いの域にとどまらず、情報番組でのコメンテーター、著書(代表作に『藝人春秋』)の刊行、そしてテレビ・ラジオ番組で映画を取り上げるコーナーを担当するなど、マルチに活動する。

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